ツノナシオニ 第4回 混乱
一瞬で教室が、シーンと静まり返ってしまった。 みんな、あまりにびっくりしたものだから、声を失ってしまったのだろう。
でも、なんて絶妙と言うか、最悪のタイミングで突風が吹いてしまったんだろう。クラスのみんなの視線が集中している、まさにその瞬間だなんて。
お父さんは、すっかり気が動転してしまって、帽子を拾おうと手を伸ばすんだけれど、これがちっとも手につかなくって、何回も落としては拾い、拾っては落としを繰り返していた。
それが、中腰になって拾っているものだから、みんなからしてみたら、ちょうど見易い高さまでツノが降りてきて、まるで「さあ、ご覧なさい」といった具合にお披露目をしているようだ。
みんなは、口をぽかんと開けたまま、瞬きもせずにお父さんの動きに合わせて顔を上下させていた。
「お・・・」
やっと誰かの口から言葉のかけらが、出かかった。立ったままのサトルくんが、お父さんを指差して叫んだ。
「オ、オ、オニだあ、赤オニだあ!」
まるでそれが合図だったかのように、教室中の口から一斉に叫びや悲鳴がほとばしった。
「きゃーっ」
「た、助けてえ」
「ツノだ、オニだ」
先生は昆虫採集の標本みたいに、黒板に張り付いたまま、それでも首だけは教室を見渡して、
「み、みんな、こっちへ来るんだぁ」
と、震えてひっくり返ってしまった声で叫んだ。
「せ、先生ぇっ」
「西原先生」
それを聞いたみんなが、我先にと黒板に向かって走り出した。
ギーッ ガッターン
机や椅子が倒れるのもお構いなしで、みんなは大声を上げて先生の方に走っていったけど、何人もがぶつかり合ってたんこぶをこさえたり、倒れて擦り剥いたりしていた。女の子のほとんどは、泣いていた。
やがて、ものすごい騒ぎが収まって、また教室に静けさが訪れた。
ぼくはと言うと、さっきまでとは打って変わって、恥ずかしさも、不安も、怖さもなくなって、なぜか自分でも不思議なくらいに落ち着いていた。
ぼくは、倒れてしまった自分の机を元通りにして、黒板のあたりに固まっている先生やクラスのみんなを見渡した。
ぼくはこの時、どんな顔をしていたろう。みんなが、ぼくとお父さんを見比べるように、交互に見ているのが、なぜかぼくにはとても悔しかった。
そして、お父さんが、「ふーっ」と大きく息を吐く音が、ぼくの背中の方から聞こえて教室に響いた。
第5回「別離」へつづく
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