ツノナシオニ 第6回 抱擁
僕は、駆けた。駆けた。駆けた。
階段を駆け下りて渡り廊下に出ると、上履きのままで昇降口を駆け抜けて、僕は運動場に降り立った。
暗い廊下から一気に6月の太陽の下に出たものだから、僕の目の前が一瞬、真っ白に染まった。
それはまるで人間たちの世界が、オニであるお父さんと僕を真っ白な壁で通せんぼしているようだった。
僕は、ぎゅっと眼を細めた。白い世界が少しずつ形を取り戻して、運動場のはるか先、正門脇の植え込みの辺りに何か動く影が微かに見えるようになってきた。
僕はまた、ぎゅっと眼を細める。そして僕は、それがだんだんと、大きい体を小さく丸めたお父さんに形を変えていくのを確かめた。
考えてみたら、僕がお父さんに呼びかけるのって2ヵ月半振りなんだね。
「お父さーんっ」
僕は、2ヵ月半分の大きな声でお父さんを呼んだ。お父さんが、振り返る。
「た、太郎っ」
振り返って、突っ立ったままのお父さんに向かって、僕はまた駆け出した。
タッ タッ タッ タッ
はぁ はぁ はぁ はぁ
誰もいない静かな運動場に僕の足音と息使いが吸い込まれていく。
「お父さん、お父さん、お父さん!」
お父さんの胸に飛び込んだら、やっぱり変わらないお父さんのにおいがした。お父さんは僕を抱き寄せると、大きな温かな手で、いつもそうしてくれたように、僕の頭をなでてくれた。オニのくせに、なかなかツノの生えてこない僕の為に、
「太郎のツノ、早く生えてこ〜い」
と、おまじないをかけてくれた、あの頃の毎晩の寝間のように。
第7回「団欒」へつづく
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