やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。












   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


2018年07月08日

こころ王国「まりなさんと王様」 その9 心の器


こころ王国「まりなさんと王様」
その9 心の器


 王様の長い長いお話が、終わろうとしています。
「ココロニアは、2年の間に少しずつ村民を増やして、現在は140人ほどの人口を有する島となりました。そして、ココロニア村議会の全会一致の採択により、今年8月、国家として独立する旨の申請を国のしかるべき機関に対して申し入れました。
 さっきお話しましたよね。島を法人化しようとした時に妻が私のことを、社長ではなくて王様みたいだと言ったって。その話が島の仲間の間では、馬鹿みたいに受けたんです。風貌からも、鷹揚さからもまさに王様そのものじゃないかって。で、国の名称が、賛成多数でココロニア王国になってしまいました。
 いえいえ、王国と言っても世襲制ではありませんから、法に則って選挙もしますよ。
 申請の日、8月23日を、私たちは「独立宣言の日」として、それ以降私たちは、国王、大臣等の呼び名で呼び合っています。まあ、140人の世帯です。国民の大半には、ふふふ、何らかの肩書きがついてしまいましたがね」
「8月の終わりに独立宣言をされたんですか?そうしたら、ダンテBARに来た頃って、まだ・・・」
 まりなさんの問いに王様が笑って答えます。
「さよう、まだ王様になって2ヶ月くらいですな。なりたてのホヤホヤ、新米の王様だったわけです」
 まりなさんは、王様のこの長い話を聞いて、ココロニア王国に行ってみたい気がしました。王様の奥さん、お妃さまになるのでしょうか、丸蔵くんのお母さんは、どんな人でしょう。きっとやさしくてあたたかくて、それでいて芯の強い人に違いありません。法務大臣さん、経済産業大臣さんにも会ってみたい。そうそう、タカシくんの「朧月夜」も聞いてみたい。執事長の義理のお父さんはどうしているでしょう。気候もあたたかくって、人もあたたかくって、それに、お魚だってきっとおいしいに決まっています。
 不思議とまりなさんの頭の中に、行ったこともないココロニア王国がパーッと広がって、なぜか懐かしさを感じさせました。
(そんな島で暮らせたら、幸せなんだろうな・・・)
 でも、肝心な話が残っています。丸蔵くんから申し込まれた結婚のお話です。とってもいい人そうですし、まりなさん自身も、自分が丸蔵くんに魅かれているのを感じていました。でも、結婚ってそんなに簡単に決めていいものでしょうか?
 話をし始めて、まだ1週間もたってないんです。第一、ジャズシンガーになるという夢はどうします?ダンテBARは、どうします?えっ? そうそう、ダンテBARとマスターのこと。あんなにショックな出来事だったはずなのに、まりなさんは、夕方のことなんてすっかり忘れていました。公園の時計の針は、もう11時を回っていますが、それでもダンテBARでのあの出来事は、まだたったの5時間前の出来事です。それなのに、あまりにもいろいろなことがありすぎて、まりなさんには、あれは遠い昔のお話か、夢の中の出来事のような気さえしています。
 FREE BIRDSのピアノの吉田さんの骨折。思いもかけなかったマスターの豹変。王様と丸蔵くんの登場。HART LANDでのライブの大失敗。王様と丸蔵くんの関係。MARUZOHくんの突然のプロポーズ。そして、ココロニア建国史。本当にいろんなことがありました。
 いえ、本当にあったことなのでしょうか。やっぱりまりなさんには、夢か幻のような気がしてなりません。まりなさんがそんなことを思ってふうっと大きく息を吹いたその時、
「まりなちゃ―――ん」
「まりなさ―――ん」
 誰かが、遠くでまりなさんのことを呼ぶ声が、微かに、微かに聞こえました。
「まりなさーん」「まりなちゃーん」
 晩秋の夜の肌を刺すような都会の冷気の中、まりなさんを呼ぶかすかな声が徐々に大きくなってきました。
こんな時間に誰でしょう。公園の入り口の方から今度ははっきりと、男の人の声が聞こえました。
「こ、この黒塗りのクルマ、これ王様のクルマだよ!間違いない、王様のクルマだよ!」
「じゃ、じゃあ、もしかしてまりなさんもここに?」
 もうひとりは女の人の声です。王様が声の方を向き、やさしく声をかけました。
「まりなさんと私なら、ここにいますよ」
 公園の入口の2人は、その言葉を聞くと同時に
 タタタタタタッ
「まりなちゃーん、さ、探したんだよぉぉ」
「ま、まりなさぁん」
まるで迷子の子供がお母さんを見つけたかのように、ジャングルジムの脇の暗がりを大きな声で叫びながら走ってきます。
 そして2人は、ゼイゼイ言いながら、まりなさんの正面に立ちました。
「マ、マスター。そ、それに 奥さんまで・・・」
 そこには、方々を探し回ったのでしょう。この寒空なのに汗びっしょりのマスターとその奥さんが、目にいっぱいの涙をためていました。
「まりなちゃんっ!」
 マスターは、大声でそう叫ぶとその場に座り込み、なんと、土下座をし始めるではありませんか。まりなさんが声をかけようとしましたが、その前にマスターは土下座したまま、叫ぶような大声で話を始めてしまいました。
「まりなちゃん、ごめん。本当にごめんなさい。俺、どうかしてたんだ、ホント、どうかしてたんだ、あの時。いや、あの時だけじゃない。店の経営が悪化してからのこの半年間・・・
 いやいや、そんなの言い訳だよね。でも、俺、毎日金の工面ばかり考えて、店でカッコつけたり、冗談言ってても、 心のどっかに、やっぱりそんな心配があって。やっとその心配から開放されると思った今日、突然の事故があって、で、あんなひどいことを・・・
 いやでも、違うんだ。心にもないひどいことを言ったなんて、そんなこと言うつもりはない。確かにあの時点では、あれは俺の本心だった。隠していた本心が 口をついて出ただけなんだ。だから・・・、だから・・・、余計に情けないし、悔しいし、申し訳ないんだ。
 戻ってくれとは俺にはもう、言えないけど、せめて一言、謝りたくって・・・・」
 そこまでいうとマスターは、おいおいとまるで子供のように声を枯らして泣き出してしまいました。マスターの傍らに立った奥さんが、やっぱり泣きながら言いました。
「まりなさん、本当にすまないことをしてしまいました。私も主人と同じです。貧すれば鈍す、私たち夫婦がまさにそれでした。私は主人のまりなさんに対するひどい仕打ちに心の中で「そうだ、そうだ」と思っていましたもの。でもね、まりなさん。本当に言い訳にしかならないけど、私は、息子に人並みのことをしてあげたい、それだけしか頭になかったの。
 それと、もうひとつ、もうひとつだけ言い訳をさせてくれる?実はね・・・、HART LANDの店長さんに まりなさんを紹介したの、ウチの主人だったの・・・」
「・・・・・・」
 まりなさんは、どきりとしました。王様も丸蔵くんもこれには驚いたようです。奥さんは、続けました。
「お店が、万一うまくいかなくなって、その・・・、潰れてしまった場合、まりなさんもお仕事が無くなってしまう訳でしょ。それで、商売敵のHART LANDの店長さんに、「ウチの氷川を見てやってくれ」って頼んだの。
 でも、あちらの店長さんからも、まりなさんからも、そういった話はちっともなくって・・・
 あんな小さな店でしたが、主人にもライバル店へのプライドがありましたから、店長さんには、連絡は必ず主人を通してくれって、そうお願いしてたんですけど・・・
 それが、あの・・吉田さんの事故の場面で、初めてまりなさんから「トライアウト・ライブ」の話を聞いたでしょ。主人も・・きっとショックだったん・・じゃ・・ないかと思うの・・・・」
 そう言うと、奥さんも地面に突っ伏して、マスターと2人でおいおいと泣き出してしまいました。
 まるで子どものように泣き続けるマスターと奥さんをまりなさんと王様達は、暫くの間そっと見守っていました。でも、ほの暗い公園に冷たい北風が吹いて、みなの首筋をブルブルッと震わせると、ほとんど同時にまりなさんと王様が2人に歩み寄りました。
 まりなさんは奥さんに、王様はマスターの肩に、そっと手をやりました。まりなさんは、何か言葉をかけようと思ったのですが、なかなか思いが言葉になりません。やっとの思いで、
「ご、ごめんなさい・・・」
 そう言うと、まりなさんまでもが涙の輪に引き込まれてしまいました。3人の泣いているそばで、目をウルウルさせた王様が言いました。
「まるで、あの日のココロニアのようですな。他人を思いやる心がすれ違いを起こしてしまっても、人間は、本当の心さえ失わず、心をさらけ出しさえすれば、いつか必ず結びつきあえるものなんですな・・・」
 丸蔵くんが駆け寄ります。
「まりなさん、マスターたちも、いつまでもこんなところにいたら、風邪を引いてしまいますよ。どこかでホットミルクでも飲んで暖まりましょうよ」
 まりなさんが、泣きながらこくんと頷きました。丸蔵くんは、
「よおし、あったまるぞう・・・」
 とおどけて言いました。まりなさんが、くすりと笑います。
 みんなでダンテBARに戻ることになったその道すがら、王様は歩きながら、こんなことを言いました。
「最近、感情を押し殺すことが流行ってしまったのか、昔のように心から泣く人、心から笑う人が少なくなったような気がします。映画やテレビドラマを観て、泣いたり笑ったりするのと、本当に心から泣いたり、心から笑ったりするのは、全く違いますよね。それは、傍観者であるのと当事者であることの違いなんでしょうね。みんな当事者である事が少なくなった分、バーチャルな感情を求めているのかもしれません。
 今では「キレる」という言葉を、大人までもが当然のように使っています。ご存知のようにこれは、ちょっとしたことで怒りが爆発してしまい、自分が制御できなくなることです。浅薄な文化の中で育った現代人は、
感情を受け止める心のキャパシティーが、知らず知らずに狭められているんじゃないでしょうか。
 そしてそれは、喜びや悲しみ、寂しさや悔しさにも当てはまることなんじゃないかと、私は思うんです。本来は、それらの感情こそ、感動を生み出す元でもあるはずなのに。
 感情を押し殺すことが、秩序を保つとか、カッコいいと教えられると、人間は自らの心に蓋をして、心を狭めさせてしまう。狭められた感情の器としての心は、ちょっとしたことですぐに満たされますが、小さい器では所詮、浅い感動しか得られません。本来人間は、大いに笑い、大いに泣き、大いに怒り、そして大いに、感動するもんなんですよ。
 長距離走のコツをご存知ですか?しっかりと深い呼吸をすることです。きちんと二酸化炭素を吐き切ってから、肺の奥まで新しい酸素を取り込むんですな。それに反して浅い呼吸を数多くするだけでは、肺の上の方だけにしか酸素が届きませんから、喘いでいるばかりになってしまうんです。
 心も一緒です。自分が知らず知らずのうちに心の器にしてしまった蓋を開いてあげて、本来の器を満たす感情をしっかりと受け止めてあげられれば、深い感動や深い思いが受け止められるんですよ。それだけの心の器が、誰にだってあるんです」
 そう言って、王様は大きく息を吸い込むと、マスターに向かって微笑みました。
「さっきのマスターは、うん、かっこよかったですな・・・」

最終回につづく



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