俺様とマリア vol.98 「美味しさに国境は無い」
「なあ、B・B、韓国料理と言ったら、やっぱ豚だよな。
その中でも、お勧めはと来れば、なんたってサムギョプサル。
この三枚肉とサムジャンとエゴマのハーモニーが、うん、堪らん」
「おお、さすがアネキン、わかってるね。
表面をカリッとさせて、余分な油を落とすってのが、俺たちアスリートにはありがたいよな。
俺はさ、細かく切ってサンチュとかで巻くんじゃなくって、大きめのをガブリといくのが好きなんだよな」
「うん、わかるわかる。
男ならそういきたいもんだよね、ガブリとね。
もう、サムギョプサル、最高っ」
「おいおい、素人どもが何言ってやがる。
お前らの会話は、そこいらのガイドブックのまんまの受け売りじゃねえか。
これだから俄か韓流ファンは嫌なんだよ、ミーハーはよぉ。
豚と言ったらポッサムで決まりだろが。
キムチとリンゴを乗せて白菜の漬物で巻いて食べる。
サムギョプサルで満足してるようじゃ、まだまだ駆け出しだな」
「偉そうに言ってんじゃねえよ、E坊。
2度や3度先に来てるからって、通ぶってんじゃねえぞ、こら。
しかも、てめえだって元はと言えば、神龍に教えてもらったんじゃねえか。
てめえこそ、似非韓国通のニワカのミーハーじゃねえか」
「何だと、こらぁ、もう1度言ってみろ!」
「やるか、このボケが。
最凶トーナメントのリベンジがこんなに早くできるとは、願ったり叶ったりだ。
俺の超合金ニューZの正拳突きで、そのイカレた頭に穴ぁ空けてやんぜ!」
「やれるもんならやってみろ、こら。
表へ出やがれ、この野郎!」
「おう、どっちもやれやれ。
お前らが喧嘩してるうちに、サムギョウサルもポッサムもテグタンもナクチボックムもケジャンも、ぜ〜んぶオイラが食い尽くしてやるから」
花ちゃんのツッコミに、キム・クンナムがエプロンで手を拭きながら笑っている。
俺様と花ちゃん、B・B、アネキンの4人は、このところほぼ毎日、大久保の「オモニの店」で韓国料理に舌鼓を打ちまくっている。もちろん当初は、猛虎と呼ばれる5人目の戦士キム・クンナムのスカウトの為の日参だったけれど、それまで焼肉と冷麺、ビビンバくらいしか知らず、ほとんど免疫の無かった韓国料理の美味しさと奥深さに魅了されちまった俺様は、ついつい本来の目標を忘れちまって、オモニ、キム・クンナムの作る料理を食べる為だけにこの店に通うようになっちまった。そのうち俺様は、この幸せは独り占めするのではなく、誰かと共有すべきものだと確信して、花ちゃんに声を掛けた。屋台のおでん屋の花ちゃんは、料理にも詳しくって、オモニの料理を大絶賛した。その後も大久保通いのメンバーは1人増え、2人増え、ついには、このような舌鼓の連打合戦と相成った訳だ。
最初のうち俺様は、明らかに招かれざる客で、行く度にオモニは怪訝そうな顔をして注文を取っていたものだったが、チーム神龍の話など一切せずにオモニの作る料理に素直に驚き、説明を求め、感嘆する俺様を見て、オモニの表情が少しずつ和らいでいくのが俺様には分かった。それはまるで、雪に覆われ硬く凍りついた厳冬の大地が、すこしずつではあるけれど春に向かい、やがて雪解けを迎え、芽生えを待つのにも似ていたのかも知れない。そして日参5日目、花ちゃんを連れてきた時に、我がことのように韓国料理の自慢をする俺様に、オモニは初めてやさしく笑いかけてくれた。
それにしてもオモニの作る料理は、当然韓国料理で初めて食べるメニューも少なくないし、かなり辛いものもあるのに、なぜこんなに懐かしくて温かい気持になるんだろう。
「今度、花田さんのおでんも食べに行こうかね」
オモニがお代わりのマッコリの入ったヤカンをテーブルに置きながら言った。
「大歓迎だよ、オモニ。
オイラ、腕によりをかけてご馳走するよ」
「腕によりをかけるって、花ちゃんよう。
おでんってさ、鍋の中におでんダネ入れて煮るだけだろ?」
アネキンがまた茶々を入れる。獄真会館で大暴れして破門になったこいつは、見掛けのゴツさと裏腹に妙に笑いを取りたがるんだけど、いまひとつ、いやふたつ、みっつほど笑いのセンスに欠けているようだ。最凶トーナメントの試合後のMCもスベリまくっていたしな。
「ああ、やだやだ。
これだから素人は嫌なんだよ。
ねえ、オモニ」
笑って頷くオモニのポケットの携帯が振動した。
「誰だろ?」
どうやら登録していない相手らしい。きっとオモニも俺様と同じ嫌な予感がしたのだろう。ディスプレイを見詰める表情が一瞬曇った後、俺様と視線がぶつかった。
【To be continued.】
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