ツノナシオニ 第1回 手紙
お父さんから手紙が来た。どうやら、おじいちゃんが先に読んだみたいで、封はもう開けられている。手紙を手渡すとおじいちゃんは、心配そうに僕の顔を覗きこむようにして見たけれど、僕は久しぶりに見るお父さんの字が懐かしくって、それに気づかないふりをしていた。
便箋を封筒から引っ張り出すと、ほんわりとお父さんのにおいがして、僕は夢中になってお父さんの字を目で追っていた。
前略
元気にやっていますか?友達はできましたか?太郎がこの島を離れてもう2ヶ月が過ぎましたが、お父さんは、お前のことが心配で、片時もお前のことを思わない時はありません。朝から晩まで太郎のことばかり考えてしまいます。
さて、もうすぐ父の日ですが、そちらではその父の日に「授業参観」というのがあって、お前たちが学校でどんな風に勉強を教わっているかを見る機会があるそうですね。お父さんは、ぜひ、お前がどんな風に勉強をしているのかを見に行こうと思っています。
授業を見たらすぐ帰ることになると思いますが、これが今年のお父さんへの父の日のプレゼントになるよう、お前の元気な姿を見せてください。
では、6月の第3日曜日に学校で会いましょう。その日が今からとても楽しみです。
お父さんより
お父さんに会いたいという気持ちと、お父さんは大丈夫だろうかという気持ちが、僕の中でないまぜになってきた。
島を出て2ヶ月と2週間。僕だってお父さんのことを思わなかった日なんてなかったよ。お父さんに、会いたい。やさしくて、強い、大好きなお父さんに会いたい。
でも、お父さん1人で、本当に大丈夫だろうか。学校のみんなの前で、この東京の街で、上手くやることができるんだろうか。もし、みんなに、あのことがばれたりしたら、僕はこれからどうなってしまうんだろうか。
島には電話も、郵便局だってないから、お父さんが近くの島の漁師さんにお願いして、郵便局に届けてもらう手紙だけが唯一の連絡の手段なんだ。
島のお父さんから僕のところに郵便が届くまでに、相当な時間が経ってしまっていたようで、僕が手紙を受け取ったのは、「授業参観」が、もう、明後日に迫っている日だった。きっとお父さんは、とっくにこの街に向かっていて、もう連絡の取りようなんてないに違いない。
第2回「参観」へつづく
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