やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。












   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジャー・ウォブルさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


2020年02月16日

ユメミダケ心中 第16回 女の転の壱


ユメミダケ心中 第16回 女の転の壱


 征一は、ある意味、満ち足りていた。これまでの36年間の人生の中で、ここまで雄弁且つ赤裸々に自らの心の内の奥底までを他者に吐露したことなど1度としてなかったのである。
 溜めに溜め、我慢に我慢を重ねて膀胱いっぱいになった小便を、駆け込んだ便所で一気に解き放つのにも似た充足感、満足感である。
 しかし征一は、その満足感と背反する不安も覚えていた。
 今まで経験したことがなかっただけにより強く感じるのだろうが、本音を語るということは、抜き身の刀で切りつけたようなもので、相手の間合いに強引に切り込んでしまったのであるから、相手方も必死になって防御、反撃するのは必然であり、自らのリスクも何倍にもいや増すものなのだ。
 しかも相手は、ひねくれて、よじれ返ったような恭子である。ストレートで純朴な征一の表現方法を、心を打たれるであるとか、感動的であると素直に受け止めるものであろうか。
 およそ一筋縄でいくとは思い難いのであるが、実際、恭子の反応はその通りであった。
「さっきから聞いてればあんた、良い年してテレビドラマの主人公でも気取ってるつもり?だって、さっきのあんたの台詞ときたら・・・
 生きたいんです、あなたと、生きたいんですって、何あれ。恋愛ドラマのパクり?どこかで聞いたことあるような気がするのは、気のせい?
 大体、砂漠って何よ、余りにも比喩が陳腐過ぎるわ。今度は演歌?内山田弘とクールファイブの東京砂漠の完パクじゃない。あなたがいれば〜、辛くはないわ〜って、そう言いたいの?ホント、馬っ鹿みたい。
 それに、なんてったけ?共鳴?言っとくけどね、あんたにアタシの何が響いたか知らないけど、ちょっとばかりアタシが思い出話をしたからって、半日やそこいらでアタシの何が分かるって言うのよ。
 確かにあんな話、周りの人には言わないわよ。でもね、アタシはあの時酔ってたのよ、しかもかなり。泥酔してたのよ。別に目の前にいたのがあんたじゃなくたって同じ話をしたわよ、きっと。下手したら、猫や犬だったとしたって話してに違いないわ。達磨やこけしだってしてたかも知れない。いえ、きっとしてたわ、間違いない。
 いいこと?思い上がらないで。あんたなんて、その程度の存在なのよ。達磨やこけし以下の存在よ。勘違いも甚だしいったらありゃしない。
 と、当然、け、け、結婚なんて、拒否よ、拒否」
 よくもここまで酷く言えるものだ、感心してしまう。
 いくら自分に保険をかけて嫌われるように仕向けていたからと言って、何もここまで、憎悪されるまで言う必要などあるまいに。
 一方、決死の覚悟で挑んだプロポーズをあっさりと袖にされ、さぞかし征一はがっかりしているだろうとその表情を見やると、確かにショックは少なからず受けてはいるものの、不思議にも完全に打ちのめされたというほどの態ではない。
 恭子の拒否、反論は、征一の想定内であったのだろうか。
 果たして征一の応えは、次の通りだった。
「ぼ、僕、あなたがそういうと思ってました。あなたは、まだ癖が抜け切っていないんですよ。他人から嫌われようようとする癖が。
 反論さえする気をなくすまでに一方的に否定してる。別にいいんですよ、返事は今日でなくったって。急ぎません、時間をかけてゆっくり考えてください」
「ちょ、ちょっと待ってよ。時間をかけてゆっくりって、なんで明日がある訳?今晩の心中の話は、何処行っちゃったのよ。あんた、もう死ぬ気、全然なくなっちゃってるの?」
 慌てたように恭子が詰め寄るが、征一は意にも介さない。
「も、もうありませんよ、死ぬ気なんか、これっぽちも。だって、あなたも言ってた通り、さっき僕、生きたいって何回も繰り返したじゃないですか。もうやめました、死ぬのは」
「じょ、冗談じゃないわよっ!」
 恭子は涙声になっていた。
「あんたの勝手な都合で死ぬの生きるの言わせないわよ。あんたがアタシのことどう思おうと勝手よ、好きに思えばいいわ。
 でもね、アタシ、ここに死にに来たのよ。1人じゃ怖いからあんたみたいなケチな男、ネットで捕まえて来たのよ。何の取り得もない中年オタクを鴨にしたのよ。
 あんたなんてただの付き添い、殉死みたいなもんよ。それこそ、こけしどころか、埴輪よ。でも、その埴輪みたいなあんたが、勝手に希望に輝き始めてんじゃない。
 アタシが、余計に惨めに、哀しくなるのも当然じゃない。アタシね、あんたとは違うの。いい?アタシ、あんたより繊細なのよ。
 一瞬で切り替えられるほど能天気にはできてないの。それに1人で死ねるほど強くもないわ」
「だ、だから、時間をかけて・・・」
 また泣き出してしまった恭子に、征一はそれ以上何も言えなかった。

第17回「女の転の弐」へつづく



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posted by maruzoh at 11:02| Comment(0) | ◆ユメミダケ心中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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