やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。












   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジャー・ウォブルさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


2020年02月02日

ユメミダケ心中 第14回 男の転の弐


ユメミダケ心中 第14回 男の転の弐


 呂律が回らない。論理的な思考ができずに支離滅裂。感情が制御できずに泣き喚き、大量の洟まで垂らし続ける。
 それまでは酩酊と言っても過言ではない恭子であったが、「結婚」という征一のたった一言が、頭の中に立ち込めて膨張してしまったどんよりとした靄を、見る見るうちに晴らせてしまった。
 いや、晴らせるなどという爽やかなイメージではない。それはむしろ、思いもよらぬとてつもない暴風が俄かに押し寄せ、靄を吹き払っていったと言う方が相応しいのかも知れない。
 しかし、それでも恭子は、言葉を発せられずにいる。突風の後に立ち尽くす恭子には、靄が晴れたことにより、目の前に現れた迷宮の様が、その複雑に入り組んだ全貌が、より鮮明さを増して迫るように思えるのだった。
 出口が見えない、ここは一体何処だろう。出口など最初から求めていないはずの恭子が、それでも出口を捜してしまうのは、これも生への執着、本能なのであろうか。
 チリチリという音七輪のが、静けさをいや増す。
 静寂の後、恭子がやっと口を開いた。
「は、ははは、あんた、しょ、正気なの?な、何考え、てんのよ、ま、全く、馬鹿じゃないの?」
 それは、笑いとは言い難い引き攣った表情と口調であり、誰かに聞かせると言うよりも、まるで独り言のようにしか聞こえなかった。
 征一は、俯いたまま、これに応えずにいた。
 やがて大きく息をついた恭子が、今度は、はっきりとした口調で言った。
「あ、あんまり馬鹿馬鹿しいんで、驚いちゃったじゃない。ホント、いい加減にしてよね。
 で、でもね、アタシには、あんたの本心なんてお見通しよ。あんた、あんな馬鹿なこと突然言って、何とかアタシが死のうとしてるのを思い止まらせて、自分も死なずに済ませようって、どうせ、どうせその程度の魂胆なんでしょ、違う?笑っちゃうわ、猿知恵以下よ」
 征一は顔を上げて、恭子を見て笑おうと努力したが、恭子以上に引き攣ったその表情は、とても笑顔とは言えない実に奇妙なものだった。
「は、ははは、猿知恵以下か。そうかな?た、確かにそうかも知れない。正直、そんな気持ちが、あるのかも知れないな、ホントは。
 で、でも・・・。い、いや・・・。こ、怖いな、確かに。この期に及んで、ははは、僕ビビッてますね、完全に。
 はは、おかしいなあ、さっきまでは、本気で死ぬ気だったんだけどな。ついさっきまでは、こんなに怖くなかったのに。な、なぜなんだろ、おかしいな・・・」
 征一の眼には一瞬間恭子が落胆したかのように映ったのだが、それが何に対する失望なのかを考察するには、今の征一は、なぜか異様に怖気づき過ぎていた。
「で、でも、責任は取ります。あなたが、食べるんなら、当然、僕も食べます、一緒に。ち、誓います、はい」
 2人は見つめ合ったまま、また沈黙してしまった。
 風が少し吹いてきたのだろうか。山の木々のざわめきの後、梁の辺りからみしりと音がした。
 静寂を破ったのは、またしても恭子だった。
「アタシ、食べるなんて、言ってないわよ。毒キノコは嫌だってさっきからずっと言ってんでしょ。
 それにしてもあんた、言うに事欠いて、け、結婚だなんて、なんで、そんな馬鹿げたこと、急に言い出したの?どうせ延命の為の口からでまかせなんだったら、あんな見え透いた白々しい嘘じゃなくって、あんたも、もっともらしい嘘つかなきゃ、駄目よ。ははは、とんだお笑い種だわ」
 征一は、眼を剥いた。首をぷるぷると左右に大きく振った。
 そして、身を乗り出して叫ぶように言った。必死だった。
「ち、違います、それは、違う。確かに僕は今、怖がってます。ビビってます。それは事実です、認めます。
 で 、でも、だからと言って、その気もないのに、延命の為だけに結婚してくれだなんて言った訳じゃない。違うんです。信じてください。自分でも良く分からないんですが、あれは口を衝いて出てしまった言葉だったんです。
 そして、そしてですよ、今になって、やっと気づいたんですが、こんな風に僕が、本当に死ぬのが恐ろしくなってしまったのは、結婚してくださいっていうその言葉を、自分でも思いがけずあなたに発してからなんです。あなたに結婚を申し込んだ、その瞬間からなんです」
 風が吹いたのだろうか。木々のざわめきは聞こえなかったが、天井の梁がまた、みしりと軋んだ。

第15回「男の転の参」へつづく



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posted by maruzoh at 16:10| Comment(0) | ◆ユメミダケ心中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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