やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。












   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジャー・ウォブルさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


2019年10月06日

お取り寄せ救世主 最終回 大団円 神様は本当にいるのかもしれない


32 大団円 神様は本当にいるのかもしれない


 その日の私は、散々だった。今朝ほどまでは、確かに優しげではあった妻だが、それが、何らかのきっかけで、あの傲慢不遜の仁王に戻ってやしまいか。或いは、傷心の飯山君に対して、適切なケアができているだろうか。そんなことが、自分の想像以上に気になってしまっていたのかもしれない。
 私は、確かにいつもの私ではなかった。始業早々から信じられないようなミスを連発した。最初はねちねちと嫌味ばかり言っていた上司であったが、その後もコンスタントにミスを重ね続ける私に、仕舞いには「熱はないか?」などと私の額に手を当てて本気で心配する程の全くの体たらくであった。
「た、ただいま」
 何とか8時間の拘束時間を乗り切り、玄関を開けて靴を脱ぎ散らかしたままの私は、妻がいるであろう夕食時のキッチンに急いだ、のだが、「お、お帰りなさい」存外にも灯の消えた居間にいた妻が、押っ取り刀でやってきた。ちょっと様子がおかしい。
 と言うか、大体において妻にとって、1日のうち最も崇高な時間であるべき夕食時だって言うのに、キッチンにその仕度が全くできていないだなんてこと、今の今まで、1度としてなかったんじゃないだろうか?
 いったいどうしたって言うんだろう。まさか、飯山君と?私は、ちょっと心配になってしまった。
「民子、何かあったのか?ま、まさか、飯山君が・・・」
 妻は、伏せ眼がちに首を横に振って、キッチンのテーブルセットの椅子をゆっくり引くとそれにゆっくりと腰掛けた。私は暫く妻を見つめていたが、妻は指を組んだままなので、私もそれに倣って座り、妻の次の言葉を待つことにした。
「メシヤマちゃんね、9時半ちょっと前に起きたの。でね、私、言われた通り目玉焼き作ったのよ。ちょっと焼き過ぎちゃったかもしれないけど、彼、美味しいって言ってくれたわよ」
「うん、そうか。その、よくやった。で、それで?」
「バイトの時間まで、まだ時間があるから、お茶でも飲んでいけばってことになって、このテーブルで、お茶を飲んだんだけどね」
「うん」
 私が身を乗り出したのでテーブルがゆあーんと揺れた。これ、次の休みに、修理しなくっちゃなぁ。
「それが、メシヤマちゃんね、例の身の上相談の電話のことだけどね。いろんな電話が架かって来て、ホント迷惑し通しだったけど、猫のミーコや、宝くじが当たった話を聞いたじゃない?あれを聞いてね、自分が本当の救世主だったらいいのになって、寂しそうに、ポツリと漏らしてたの・・・」
 そうなのだ。埼玉南教会の転送電話登録間違いの話は、飯山君自身は、まだ知る由もないのだ。
「そうなんだよな。例の電話の種明かしは、飯山君がトイレで寝てる間だったからな。それを知らないのは、本人だけか。お前、そのこと、飯山君に教えたのか?」
 妻は、滅相もないという風に首を振った。
「まさか。教えられる訳無いわよ。もしメシヤマちゃんが、救世主じゃない方がいいって言うんなら、折を見て教えたかもしれなかったけど、ああ言われたんじゃね」
 確かに妻の言う通りである。妻も意外とやるものだと、私は少し見直すと共に、先程の飯山君の発言に少しだけ違和感を覚え、妻に尋ねた。
「でも彼、昨日は救世主なんて迷惑千万で、自分が救世主だなんて、以っての外って感じだったじゃないか。それが、どういう風の吹き回しで・・・」
 昨日のことを思い出しても、あのおどおどした飯山君からは、救世主になって権力を得て君臨しようだとか、奇跡を起こしてしこたまお金を儲けようだとか、そんな大それた欲望とは、無縁のような印象を、私は受けていた。
「なぜだと、思う?」
 妻が、しんみりと問いかけた。暫く考えてみたが、どうにも良い答えが見つからない私は、悪い癖でふざけ半分でお道化てみせた。
「まさか、民子という辣腕マネージャーを見つけたから、とか言うんじゃ、ないだろうな」
「茶化さないで。私、真面目な話、してるんだから。ほら、亡くなったお母さんのことよ」
 妻は意外にも、真剣な眼差しで私のことを見つめている。
「亡くなったお母さんのことって、ま、まさか、霊能力とかで黄泉の国のお母さんと話をして、自分の出生の真相を聞いてみたいとか?」
「そんなんじゃないわよ、馬鹿ね。確かに、出生の秘密に関わることだけど。ヒントは、救世主キリストのお母さん、マリア様よ」
「マリア様? マリア様ねえ・・・」
 私は、腕組みをしたまま考えを四方に巡らせてみた。マリア様がキリストを生んだのは、馬小屋だったはずだが、飯山君が馬と何らかの関係があるとは思えないし、それとも・・・
「あっ!」
 思わず私は、小さく叫んでしまった。
「しょ、処女懐胎」
 妻が、小さく何度も頷いている。
「そうなのよ。メシヤマちゃんたら、お父さんにも気を使ってたんだと思うの。それに彼、本当にお父さんが好きだったのよ。気にしてない風にしてはいたけれど、自分の出生について、本当なら気にしない訳がないものね」
「そうか、それでか。もし自分が、キリストと同じ救世主だとしたら・・・」
「お母さんは、マリア様と同じ処女懐胎。契ったのは、大工のお父さんだけよ。そうすれば、お母さんがずっと言い続けていた通り、お父さんがずっと信じようとしていた通りに、なれるのよ。メシヤマちゃんの大好きな2人の思う通りに」
「なるほど」
 妻は、続けた。
「でね、そのメシヤマちゃんのお父さんなんだけれど、最近ね、緊急入院したの。肺がんなんですって。気づくのが遅くて、もうだいぶ悪いみたい。それで、あんな言葉が、たぶん、口を衝いてでちゃったのよ」
 私は、言葉が出なかった。妻に言われたように、茶化したりしてすまないと思った。
「メシヤマちゃん、来週にでも練馬のアパートを引き払って、宇都宮に帰るって言ってたわ。お父さんのそばに居てあげたいんだって」
「うん、それがいいと思うよ」
 私は、微かに揺れているテーブルの一点を見つめていた。下品この上ない馬鹿馬鹿しい黄色いチラシと、妻の脅迫めいた電話から始まった救世主騒動だったが、人には誰もがそれぞれ、過去から未来に繋がるドラマがあるんだと、この年になって改めて教えてもらったような気がした。
「メシヤマちゃん、手紙くれるって言ってたわ」
 妻は、そこまで話し終わると、私の顔を覗きこむように顔を接近させてきた。この雰囲気だし、久し振りにキスでもしようかと思ったのだが、その割には、妻の眼は真剣そのもので、どうやら、そんな気配ではなさそうだ。
「実はね、まだ、これでお仕舞いじゃないのよ」
 ポカンとしている私に妻は、信じられないことを言った。
「メシヤマちゃんの出掛けにね。また、携帯が鳴ったのよ、ちゃっきり節が。で、宇都宮の市外局番だったから、お父さんの病院じゃないかと思って、メシヤマちゃん、慌てて出たんだけどね・・・」
「・・・・」
「これがね、こともあろうに、訳の判らない身の上相談だったのよ。私、もう、頭がこんがらがっちゃってね・・・」
 私は、呆気に取られてしまった。だって、五十嵐は昨日、対策を講じたって。いや違う。それどころか、だいたいにして、坂戸以外からの電話なんて有り得ないだろう、絶対。じゃあ、一体・・・
 呆然とし続ける私の肩に、妻が優しく手を置いた。はっと顔を上げるのに合わせて、テーブルがゆあーんと右に揺れた。
「私ね、メシヤマちゃんと話をして思ったの。ダイエットとまでは言えないかもしれないけど、ちょっとだけ、ちょっとだけよ、ご飯の量、減らそうかなって。できるかどうか、分からないけどね。だって、そうでしょ?もしメシヤマちゃんが本当の救世主だったとしたら、彼への神頼みは、ダイエットなんかより、もっともっと良いことの為に取っとかなくっちゃ、勿体ないものね」
 妻の恥ずかしそうな笑顔が、眩しかった。私は妻の手に自分の手を重ね合わせた。その手は、とても、暖かだった。私の笑顔に合わせて、今度はゆよーんとテーブルが左に揺れる。
 神様は、本当に、いるのかもしれない。

《完》



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posted by maruzoh at 18:42| Comment(0) | ◆お取り寄せ救世主 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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