やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。












   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジャー・ウォブルさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


2019年09月22日

お取り寄せ救世主 第30回 長い長い夜の終焉


30 長い長い夜の終焉


「あ、あの、すみませんでした。便座に腰掛けて小さい頃のこと思い出してたら、も、物凄い睡魔に襲われちゃって・・・」
 寝てたのか、便所の中で。どおりで長いはずだ。だって、かれこれ15分近くは経っているのだから。
 ところが、既に真相を、しかも、あまりにもがっかりな真相を知ってしまった妻は、まだ気持ちの整理がついていないのだろう。さっきまでの優しさを漂わせたいい感じだった姿は影を潜め、自然、対応もぎこちなく、もはや言うこともやけくそ気味の投げ槍、当初の傲慢かつ不遜な妻に戻りかけている。
「で、どう?メシヤマちゃん。トイレで何か面白いこと、思い出したりした?出産の朝、お母さんの夢枕で阿修羅が三人羽織してたとか。日光菩薩と月光菩薩がどつき漫才してたとか」
 どこの誰がそんな夢、見るって言うんだ。しかし、いくら当てが外れたからって、その対応はどうかと思う。だって、自分が勝手に事実を捻じ曲げて期待してただけだろう?完全にこちらの早とちり、勘違いじゃないか。飯山君には、全く非はないのである。
 私は、妻を肘で突付いて目配せをした。
「す、すみません。こ、このところ、夜中の電話の対応で、満足に眠れなかったもんですから」
 飯山君は、申し訳なさそうに頭を下げるのだが、よくよく考えてみれば、これは私たちにも責任の一端はあるのだ。連夜の訳の分からぬ身の上相談に加えて、昨晩に至っては、この妻の「すぐに来て救わなければ丑の刻参りで呪ってやる」などという、意味不明な脅迫電話を受けたのである。
 まともな神経なら、ろくに眠れないのも当然だろうし、大体において、既にもう夜中の1時を優に過ぎていて、ほとんどの人は寝ついている時間帯なのである。
「そ、そりゃあ悪かった。世の為人の為と、僕ら夢中になり過ぎてしまったんだな。それはそうと飯山君、きみ、住まいはどこなの?」
 当初飯山君の住所地は、チラシの投函されていた坂戸周辺、つまりは、この近隣だと決め付けて疑わなかったが、飯山君と埼玉南教会が無関係だと判明した今、もしかしたら飯山君は、とんでもなく遠くからやって来たとしていても、なんら不思議はないと、私は気づいたのだ。
「はあ、練馬です・・・」
「練馬って、東京の?」
「は、はい。練馬区の石神井公園、西武池袋線です」
 妻がテーブルに手をついたまま振り返って時計を確認したので、久しぶりにテーブルが大きくゆやーんと揺れた。
「もう、上りの最終なんて、とっくに無いわよ。メシヤマちゃん、あんた、どうするつもりなの?ウチ、狭いけど、泊まってく?」
「いえ、あ、あの・・・」
 恐らく、このまま夜明けまで刑事の取り調べ宜しく、私たち2人から自分の生い立ちやら両親のことを根掘り葉掘り質され続けるなどとんでもないとでも思ったのだろう、飯山君は、表情を強ばらせて、プルプルと首を横に振っている。
 それを見て妻が、クスリと笑った。
「ふふ・・、いいのよ、もう。そろそろ尋問ごっこは、お休みにしましょ。だって、メシヤマちゃん、目にクマできてるんだもん。今日は、もう、ゆっくり休みましょうよ」
「えっ?い、いいんですか?」
 ようやく妻も吹っ切れたようだ。胸を撫で下ろす飯山君に、私もスウェットの上下を手渡して言った。
「そう。もう救世主探しは、お仕舞いにしよう。隣の居間にソファーベッドがあるんだ。今毛布を出すからちょっと待って。スウェット、ちょっと小さいかもしれないけど我慢してな」
「い、いえ、た、助かります・・・」
「そんなこと気にしなくていいよ。無理やり呼びつけちゃったのは、こっちなんだからさ」
 深夜の1時過ぎにして、家の中が急に慌しくなったが、何か、憑き物が落ちたような安堵感と、爽快感を含んだ忙しさというものが、妙に心地よく、私たち夫婦も、さっきまで感じていなかった眠気に誘われ始めた。
 飯山君が、思い出したように言った。
「あ、そう言えば、さっきトイレで夢を見たんですよ」
 ソファの背もたれを倒している手を停めて、私は振り返った。妻も電子炊飯器のタイマーをセットする手を停めた。
「童謡の夢。母は、綺麗な声でよく歌ってくれたんですよ。からたちの花や、ゆりかごの歌、ペチカ、あわて床屋。母は、北原白秋が大好きでした。父はめったに歌なんて歌いませんでしたが、でも、唯一父が歌ったのが、やっぱり白秋の・・・」
 私は、飯山君に笑いかけた。
「そうか、それが、ちゃっきり節だったんだね」
 飯山君も、ニコッと笑うと、携帯の餃子を指で撫でた。
 明日は午後からバイトだという飯山君に、疲れが取れるからと強引にシャワーを浴びさせた私たちは、その隙に飯山くんの携帯から先程架かってきた救世主派遣センターの五十嵐からの着信履歴を削除して、ようやく、私たち3人の長い長い、無意味な夜が終わったのだった。

第31回「物憂げな眼ざめ」へつづく



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posted by maruzoh at 14:56| Comment(0) | ◆お取り寄せ救世主 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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