やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。












   【maruzoh's profile】
   maruzoh live.jpg

名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジャー・ウォブルさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


2019年08月25日

お取り寄せ救世主 第26回 教祖からの着信


26 教祖からの着信


「僕は、こんな風に見えて、意外と手先が器用なんです。プラモデルとか、今で言う、フィギアみたいな人形作りなんか、子どもの頃から、結構得意だったんですよ」
 飯山君は「意外」と言っていたが、そのイヤミ似のオタク系の風貌は、「意外」でもなんでもなく、まさに、フィギア職人と言っても誰も否定しまい。少なくとも私たち夫婦は、そう思った。
「例えば、ええと、鳥人戦隊ジェットマン知ってますよね?僕が小学校中学年ですよ、3年かな?4年かな?あの5人を、プラ粘土で作った時なんかは、ですね・・・」
飯 山君は、実に気高く、清廉に、恍惚たる表情で言うのであるが、私も妻も、そのジェットマンとやらが、如何様なものか全く知らぬ訳なので、「はぁ・・」などと、溜息みたいな曖昧な返事に終始せざるを得ない。
「父は、誇らしげに言ったんですよ。こいつは大工の子だから、俺に似て手先は器用なんだって。それこそ近所中に、その人形を見せて回ってるんですよ。ははは、馬鹿みたいですよね。血なんか、繋がってる訳ないのに。本当の親子なんかじゃなかったのに・・・」
 飯山君の言葉を聞いたら、もう、私も、妻も、相槌を打つどころか、身動き一つ出来ない、金縛りの様な静寂に肉体も精神も、支配されてしまった。
 ぶううううんという換気扇の音の中、暫くの後、また一つ遠吠えが聞こえたけれど、ゆあーんとしたテーブルの周りは、相変わらずの静寂のままだった。
 その永らくの静寂を破ったのは、飯山君の思いがけない一言だった。
「あ、あの、ちょっと、トイレをお借りして、あの、いいでしょうか?」
 お母さんの話から逸れて自らの用件になると、それまで滑らかだったはずの飯山君に、不思議なもので例の「あのあの」が顔を出す。
「ああ、どうぞどうぞ。玄関の方に戻って右のドアがおトイレよ」
「では、あの、ちょ、ちょっと失礼します」
 カーテンの影でカチャリとドアが閉まる音がした。飯山君が去ったキッチンに、私たち夫婦は2人残って、お互いの顔を見つめ合ってしまった。
 妻の顔は、結婚以来見たことのない、実に不思議な顔をしていたが、多分、私のこんな顔を見たのは、妻も結婚後、初めてに違いない。
 それにしても、妻の異常とも言える強欲と好奇心の為に始まった、この訳の判らない深夜に及ぶ三者面談は、キューセーシュの飯山君の出生の秘密に迫るに至って、彼が救世主であるかどうかという本来の指針を外れて、何か、違った方向に進みつつあるような予感が、私には抑えきれない。
 妻は一体、こんなにこんがらがってしまった今でも、何かを求め、何かをせんとしているのだろうか。その妻が、時計を見て言った。
「メシヤマちゃん、遅いわね」
 た、確かに、ちょっと長過ぎる。
「だ、大なのかな・・・」
 妻がテーブルをドンと叩き、またテーブルがゆややんと揺れる。
「まさか、あの子あのまま・・、逃げちゃったんじゃないでしょうね」
 私たちは、カーテンの隙間を同時に見やった。
「ねえ、あんた、ちょっと見てきなさいよ。ホントにトイレの中にいるのか、さ」
 妻に言われて初めて気づいたのだが、逃亡、いや脱出、確かにそれは、あり得る。何せ、飯山君からしてみれば、いきなり理不尽な脅迫電話に始まり、巨大な女とその一味に恫喝され、半ば拉致され、挙句の果てに、触れられたくない過去にまで言及されているのだ。よく考えてみたら、これで脱出を企てない方が余程おかしいくらいである。
 しかし正直なところ、私は、いっそのこと飯山君が、このまま我が家から脱出してくれればという気持ちの方が、強いことを否定できなかった。
 私とて、これから先の展開が気にならない訳ではないが、それ以上に、他人の複雑な半生を見るという不安もあり、しかも何よりも、もう12時過ぎ、草木も眠る丑三つ近くなのである。
「じゃあ、ちょっと見てこようか・・・」
 と、私が椅子から腰を上げかけた、その時だった。
「唄はちゃっきり節 男は次郎長花はたちばな 夏はたちばな 茶のかおり〜」
 言わずと知れた飯山君のケイタイの着うた「ちゃっきり節」だ。ブウゥゥゥゥンという振動と共にテーブルの下に、餃子のストラップと一緒に転がっている。
「お、おい。鳴ってるぞ」
 妻は大きな体を屈めてテーブルの下に入ろうとしたのだが、これがどうにも亀の甲羅のようになってしまって、私は子供のころ見た大映の特撮影画「ガメラ」を思い出した。
 それでもようやくケイタイを拾い上げた妻は、その体勢のまま顎を杓って私にディスプレイを見せる。登録された番号ではなく数字が羅列されていた。049−×××ー××××。妻は、もう1度、顎を杓って見せた。
 出ろというのか?他人の電話で見ず知らずの相手だぞ?私は、もう1度ディスプレイを見た。
「えっ?」
 あることに気がついた私は、思わず声をあげてしまい、先程のあの黄色い下品なチラシを鷲掴みにして、四つん這いでテーブルを背負ったままの妻の顔に、鳴り続けるケイタイとセットで突きつけた。
「救世主派遣センター埼玉南教会。電話が架かってきているのは、ここからだぞ!」

第27回「救世主派遣センター代表 五十嵐」へつづく



☆ランキングに挑戦☆
にほんブログ村さん、人気ブログランキングさんに挑戦中。「うふふ」とか「ほろっ」とか「なるほど」と感じたら、押してくださいね。


にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ にほんブログ村さんへ

 人気ブログランキングさんへ




posted by maruzoh at 12:41| Comment(0) | ◆お取り寄せ救世主 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。