やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。












   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジャー・ウォブルさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


2019年08月11日

お取り寄せ救世主 第24回 出会いは大月、再会は宇都宮


24 出会いは大月、再会は宇都宮


 飯山君の衝撃の告白に、どんなリアクションをすればいいのか分からない私は、眼球だけをそっと右に動かして、隣の妻を盗み見てみた。
 しかし、妻は私同様、ただ顔を強張らせて口をパクパクさせるばかりで、それはまるで、期せずして掬われてしまった金魚掬いのランチュウのようだった。
 でも、僅かばかりの良心がありさえすれば、誰だってそうなるだろう。己の私利私欲の為、或いは、ただの興味本位で他人の過去に立ち入った結果、飯山君にとっては触れられたくなかったであろう重大な過去に辿り着いてしまい、今まさに当人が、そのパンドラの箱を開けんとしているのである。
 今までの行きがかり上、「もういい」とは、よもや妻も私も言えるはずがない。欲得に塗れた私たちは、その当然の報いとして、この血の滲むような告白を聞くしかないのである。
「父と母が、25年前に出会ったと先程言ったんですが、実は、再会した、と言う方が正確なんです」
「えっ? 2人は以前から知り合いだったんだ・・・」
 妻の言葉に飯山君は、微かに笑った。
「知り合いというほどではありませんでしたが、同郷だったそうです。 山梨県の大月市。
大月市とは言っても、市街地の大月から2駅も離れた烏沢で、その最寄駅からも車で随分かかるそうですから、かなりの山の中です。
 3つ違いでしたから、父が小学校4年生の時、母は1年生。とても小さな学校なので、誰もが知り合いといえば知り合いなんですが、お人形さんみたいに可愛らしかった母は、男子生徒なら誰もが特別な感情を抱くような、そんな存在だったそうで、勿論父もその例外ではなかったそうです」
「そんなライバルが多いんじゃ、お父さんは大変だね」
「ええ。 残念ながら3つ違いですから、中学校はすれ違い。母が同じ中学に入学した年には父は卒業していますので、ロマンスは、生まれずじまいだったそうです。しかも父は、大工になる為に中学を卒業してすぐ大月を出て、大工の棟梁をしている叔父の住む宇都宮に越してしまいました。恐らく、最後に話したのが父が小学6年の頃でしょうから、12年の月日を経て、父と母は、宇都宮で再会したわけです」
「でも、12年も経ってたのに、お父さんよくわかったわね」
 飯山君は、また微笑んで、今度は首を左右に振った。
「それが不思議なんですが、最初に気づいたのは、母の方だったと、父は、そう言うんですよ。公演の前、宣伝で役者がちんどん屋さんみたいに演奏をしながら街を練り歩くらしいんですが、その時ふいに声をかけられたと、そう言うんですよ」
「さぞかし、びっくりしただろうねぇ」
「いえ。 それが、父は母のことなんかとうの昔に忘れていて、思い出すのさえ、しばらく時間が掛かったらしいんです。そりゃあそうですよね。僕だって、今、初恋の子に出会ったって、きっとわからないだろうし」
 修行を始めて8年、いっぱしの大工になった飯山君のお父さんが、旅役者になったかつての高嶺の花とも言うべきお母さんと思いがけずに再会し、お母さんから声を掛けられる。その出会いを2人がどんな風に感じあったのかは、私たち夫婦には想像すらつくはずもなかった。
 しかし、それから2人の間には愛が芽生え2人は、間違いなく恋に落ちていくのである。そして、1年を待たずして飯山君が誕生し、幸せに二十数年を過ごすことになるのだが、他の夫婦、他の家庭と唯一にして大きく異なっているのは、飯山君と彼のお父さんとは、血の繋がりが無いということが、この出会いの時点において明らかだったということである。
 壁に掛かった時計の針が、12の文字の辺りで1つに重なろうとしていた。
 あおぉぉぉぉぉぉぉん
 換気扇の隙間から、どこかの犬の遠吠えが、プロペラの回転音をすり抜けて、微かに聞こえてきた。

第25回「美しき母の主張」へつづく



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posted by maruzoh at 09:23| Comment(0) | ◆お取り寄せ救世主 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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