やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。












   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジャー・ウォブルさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


2019年06月30日

お取り寄せ救世主 第19回 5840万分の1の奇跡


19 5840万分の1の奇跡


「そうよ、ブッキョーよ。やっぱ、日本人だものね、ブッキョーよ。黄色い顔してアーメンだなんて、ふん、チャンチャラおかしいわよ。こうやってね、手のひらの皺と皺を合わせて、幸せ〜ってね。ヒューッ!ビバ、ブッキョーッ!ブラボー!ブッキョーッ!」
 妻はまるで自分の言葉に陶酔してしまっているようだ。「ブッキョー」という言葉をまるで呪文のように繰り返す半狂乱の妻を見たら、草葉の陰で仏陀もさぞかし嘆いていることであろう。
 しかし、加速度的に精神を高揚させていく妻の様子から察するに、このまま行けば、最早、先程以上の大暴走は、避けられないだろう。太鼓の乱れ打ち、アゲイン。いや、手と手を合わせた体勢ならば、そのままダブルチョップ、いや、頸動脈を狙ったモンゴリアンチョップが見舞われるかもしれない。となれば、次の犠牲者は、当然真横に座する私に外ならない。妻よ、早まるな。落ち着いて、もう一度、よく考えておくれ。
 妻のレッドゾーンに入りかけんとしている興奮を冷ます為に私は、身を乗り出した妻の首から肩の辺りに右手を回して、ろくにブラシもかけていないパサついた髪をやさしく撫でてやった。
 普通、男女がこんな風にしていれば、何と言うか、こう、ロマンチックな甘い雰囲気を醸し出すのであるが、「ふんっ、ふんっ」と鼻息を荒くして知らず知らず前進していく妻を抑えていると、やさしく回したはずの手は、ついつい羽交い絞めの様になってしまい、レース前、猛り狂っている競走馬を宥めている厩舎の調教師の心境は、恐らくこんなではなかろうかなどと考えてしまい、思わず「どうどう」などと言いそうになってしまう。
 しかし、私の腕の中、血走った眼をした妻も、飯山君に甚大なる被害をもたらした怒涛の連打を省みてか、何とか一線を越えてしまわぬようにと彼女なりに努力しているらしく、まだ私の言葉に耳を貸すだけの判断力は失っていないようだ。
「い、いいかい民子。繰り返すようだけど、もし、飯山君が本当の救世主だとしたら、彼若しくは彼の近親者には、何らかのお告げがあるだとか、それを示唆するような過去があって然るべきなんだ。読んで字の如し、世界を救う為に現れるのが救世主で、天から授かった力は、世の為、人の為に使われなければならないんだから。わかるだろ?救世主は、救世主たる自覚をしなければ、存在理由が無いんだよ。誕生日なんかは、365分の1の確率で偶然もあり得る。でも、お告げは、救世主たる必要不可欠な条件だと、そうは思わないか?」
 本音を言ってしまえば、妻にとっては、飯山君が霊能力者であろうが、超能力者であろうが、はたまた、極めてくじ運のいいただの人であろうが、そんなのは、自分にご利益さえ与えてくれれば、どうでもいいのである。ところが、それでは、利益を妻にのみ直結させることができない。飯山君が、紛れもない救世主であり、その覚醒に一役買ったからこそ、妻は、そのご利益を優先的に受けられるという大義名分を得られるのである。
「さ、365分の1。また、確率が下がったじゃない。16万かける365は、ええと・・・」
 とほほ、妻の関心は、やはりそっちにいったか・・・
「5840万分の1だよ」
 妻の目が丸く見開かれた後、飯山君を見据えた。
「メシヤマちゃん、これってすごくない?5840万分の1だなんて、あんた、日本で2人しかいない確率なのよ」
「は、はあ」
「ねえ、あんたさあ、ホント最近、何か思い当たる節ないの?忘れてない?夢よ、夢枕。最近見てないだなんて、もう少し過去まで遡ってさ。よおく思い出しなさいよ。ほら、朝起きたら、大天使ミカエルが立ってたとかさ。そうか、ブッキョーだったわね。でなきゃ、ラマ僧とかが集団で、阿波踊りを踊ってたとかさあ」
 そいつは、多分、ないだろう。妻に喋らせると、どんどん出鱈目になってしまう。
「さっきも言ったかもしれないけどさ、飯山君だけじゃなくって、お父さんとか、お母さんとか、君が産まれる時に、なにかこう、変わったことが起きたとか、そんなことを聞いたことっては、ないかい?例えば、キリストなんかの場合だと、処女であるはずのマリアのもとに精霊が現れて、『貴女は神の祝福を受けて男の子を身篭る、その子どもこそが救世主だ』と言われたらしい。一方、仏陀の母親は、仏陀の生まれる前に6つの牙のある白い象が、体の中に入る夢を見たそうだ。そう考えると、飯山君も、お母さんが鍵になるかもな」
 妻はまた、揺れるテーブルで頬杖をついて、ゆあーんとし始めた。
「確かに、父親なんて、影響力が薄いモンなのね。キリストの父ちゃんに至っては、実は、エッチもしてないわけだから、正確には、父でも何でもない訳だしね。で、どう?メシヤマちゃんのお母さんって?」
 キューセーシュの飯山君は、ちょっと頬を赤らめて、ゆあーんと揺れるテーブルから視線を上げずに応えた。
「あの、母さんは、いますが、あの、ちょっと事情が複雑で、あ、あまり、話したくは、ないんです」
 私と妻は、はっとして眼を見合わせたが、お互い軽く頷くと、すぐに飯山君の方に向き直った。そうだよ。いくらなんでも、聞いちゃいけないこともある。触れてはいけない過去は、誰にでもあるものなのだ。
「ご、ごめん、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。別に、君の過去を詮索するつもりじゃなくって、救世主についての情報が欲しかっただけなんだ」
「は、はあ、すみません」
 しかし、妻も欲得づくの傲慢な業突く張りに見えていたが、案外、心根の優しいところが残っているじゃないか。妻にだって触れられたくない過去は、あるに違いない。
「いいんだよ、謝るのは、僕らの方さ。だって、僕ら警察じゃないんだから、ね。応えたくないこと、応えなくたっていいんだよ。な、民子も、そう・・・」
 そう思うだろう、と言いかけて妻を見やった私の目に映ったのは、いつの間にやら大股で立ち上がり、丸太のように太い腕を組んで、顔面中の血管という血管を浮き上がらせた憤怒の表情の妻だった。まさに、仁王立ち、である。
「はあ?あんたら、何、甘っちょろいこと、言ってんのよ。ままごと遊びしてんじゃないのよ。いい加減にしなさいよね」
 妻よ。さっき2人で眼を見合わせて、頷いたのは、そういう意味だったんですか。

第20回「憤怒の妻のパラドックス」へつづく



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posted by maruzoh at 16:14| Comment(0) | ◆お取り寄せ救世主 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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