やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。












   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジャー・ウォブルさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


2019年05月19日

お取り寄せ救世主 第13回 1/160,000の神話


13 1/160,000の神話


 テーブルの上に乗ったまま俄か信徒と化して拝み続ける妻を、なんとかそこから半ば強引に降ろさせた私は、妻に拝み倒され恐縮と言うより、もはや、恐怖している彼にもテーブルに着くよう薦め、冷めてしまったお茶を3人分、新たに急須で淹れ直すことにした。
 ただでさえそうであるのに、頭に血が上ってしまい、馬車馬のように視界がきゅーっと狭くなってしまった妻の扱い憎さは、先刻からの様子でご理解いただいているかと思うが、このままいくと暴走し、更に扱いにくくなるのは必至で、手がつけられなくなる前に頭を冷やさせ、思考回路がまだなんとか機能している状態に留めさせねばと思い、ここはひとつ、のんびりとした雰囲気で皆で茶でも飲めば多少は落ちつくのではないかと、私は考えたのである。
 可哀想に、本来の食卓としての用途とは随分懸け離れた境遇、即ち、あんなに重い妻を長時間に渡って乗せていたテーブルは、その重力の影響で、すっかり継ぎ目が緩んでしまったらしく、茶を注ぎながらも揺ら揺らと安定感がなく、それはまるで、揺り籠のように実にやさしく、ゆあーん、ゆよーんと中原中也風に揺れていた。
 そのテーブルの上、夫婦茶碗を跨いで組んだ両手の甲に顎を乗せた妻は、うっとりとその揺れにまかせつつ、キューセーシュの青年イヤミ君に向かって、「北北東の猫のミーコに、4桁くじ、113万」と「もう、間違いないわ」を交互に、幾度も幾度も繰り返しながら、上目遣いで彼を見て一人笑いを堪えているのだが、このクックックッという押し殺した笑い声が、嵐の前の静けさという具合に、実に、不気味なのである。
 やはり、熱いお茶の効能程度では、今の妻を押さえ切れるものではないのだろうか。やがて、妻のそのクックックッという声は、徐々に、大きくなり、妻の眼が、座ってきた。
 駄目だ。いかん。大暴走の、予感がする。よし、こうなったら私が、ブレーキ役に、徹するしかあるまい。私は、心に誓った。
「た、確かに、さっきの2件の電話には、神がかり的な何かを感じない訳じゃないけどさ、彼の言うとおり、これは、瓢箪から駒が2回続いたってだけのことかも知れないぜ」
「ひょ?瓢箪から駒ぁ?あんた、これがまぐれ当たりだって言うの?」
 妻の肉厚のこめかみの辺りに、太い青筋が1本浮かんだ。
「だ、だって、彼が、彼だって、自分で、そう言ってたんじゃないか」
「あんた、いい加減にしなさいよね。いい?この新米の救世主はね、さっきのあの電話で、たった今、覚醒した自分に気づいたのよ。ねえ、そうでしょ?そうに決まってるわよ」
「いや、だって偶然ってことも、あるし。確率的には・・・」
「あんたは、本っ当に頭が悪いのね。なんとか4のくじの組み合わせって、10000分の1って言ったわよね。それに加えてミーコちゃんの北北東っていったら16方位の1つ、つまり16分の1よ。つまり、10000×16、イコォル、16万っ!いい?16万よ、16万。16万分の1の確率のまぐれ当たりなんて、そうそうあるもんじゃないわよ」
「だから、16万分の1の確率の嘘から出た誠ってやつで・・・」
「嘘ぉ?あんた、今、嘘って言ったわね。救世主に向かって、嘘とは何ごとよ。あんた、天罰が下るわ、きっと」
 妻は、キューセーシュの青年イヤミ君をも睨みつける。
「もう、あんたもあんたねえ。ほら、言い返してやりなさいよ。ウチの人ったら、あんたのこと、言うに事欠いて、嘘つき呼ばわりしてんのよ」
 相変わらず妻は、何とも傲慢、不遜なのだろう。自らが救世主と認めて先程まで拝み倒していた彼をあんた呼ばわりするばかりでは飽き足らず、更に、顎を杓って彼をけしかけているのである。妻の勢いに押されてしまった彼は、眼を伏せたまま、呟くように言った。
「う、嘘つきとは、あの、し、心外だな」
 それはもう、無理矢理、強引に、妻に言わせられたような傀儡救世主というべき彼のおどおどとした反論ではあったが、この彼の「心外だな」という一言は、妻に、彼が自らを救世主と認めたと曲解させ、盲信させるには、十分過ぎるほどの効力を持っていた。
 この一言で大いにその欲求を満たした妻は、きっと、更に過激に、その暴走を加速させていくのだろう。
 でも、妻の表情が、ぱあっと明るくなったのを見た私は、それをたまらなく可愛いと思っている意外な自分を発見して、やっぱり私は、こいつを愛してるんだなぁと、場違いにも思っていた。

第14回「メシヤ、その名は飯山」へつづく



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posted by maruzoh at 15:44| Comment(0) | ◆お取り寄せ救世主 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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