やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。












   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジャー・ウォブルさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


2019年04月28日

お取り寄せ救世主 第9回 ただの誤植と思いきや


9 ただの誤植と思いきや


「あったぞ。これだろ?チラシって」
 下品この上ない黄色いチラシを握り締めて、狭いダイニングに戻った私の視界に、神妙な顔つきでキューセーシュの青年イヤミ君を睨んでいる妻と、その体躯と視線に圧倒され、脅えて、後退りしたくてもできない彼が、テーブルを挟んで微妙なバランスで対峙している光景が飛び込んできた。
 2人は、はっとしたように我に帰ると、まるで機械仕掛けのように私の方に向き直った。
「ほら、この黄色いの。これだろ?」
 私は、顔の前でそれをひらひらさせて見せた。
「そうそう、それよ、それ。ショッキングイエローに、バーニングレッドの印刷。間違いないわ。3つのお約束って、書いてあるでしょ?」
 妻は、私の手から引っ手繰る様にチラシを奪うと、彼に対する先般からの不遜かつ傲慢な態度を180度改め、恐らく自分では目一杯愛想良くしているつもりなのだろう、チラシとキューセーシュの青年イヤミ君の顔を交互に見つつ、
「そうよ、無料なのよね」だの、「ポイント貯まるのよね」
 だのとキャッキャ言いながら彼に同意を得ようとするのだが、当の青年イヤミ君は、自分の倍以上も重量があり、しかも、折々態度が豹変する理解しがたい存在の妻に、どうしても馴染むことが出来ないらしく、引きつった顔面の左の頬、耳たぶ近くを小刻みに痙攣させて、何も応えられずに、相も変わらずにへどもどしている。
 そんなキューセーシュ君に、ついに、妻が、痺れを切らした。
「あんたさあ。ここで、はっきりとウチの人に、初回は無料ですって、断言してくれない?それと、料金表かなんか、ある?高いと、クーリング・オフって言ってるのよ、ウチの人。あんたも、そうなったら後々面倒でしょ?どう?ないの?料金表。ないんだったら、いくらか値引きしますって一筆書いときなさいよね、いい?」
 これから信心をし、功徳を得ようと心に誓った救世主その人をあんた呼ばわりし、料金表を請求した上で、更に、お布施を値切ったりするのは、世界広しと言えど、ウチの妻くらいのものかもしれない。全く、尊敬に値する図々しさだ。
「あ、あの、あの・・・」
「なによ」
「あ、あの、えーと、あのぉ」
 あぁ、駄目だ。キューセーシュの青年イヤミ君の十八番、あのあのが出てる。これが始まってしまうと、なかなか物事が前に進みにくくなり、無駄な時間を浪費するのは、先刻の廊下で学習済みである。夜も更けた事であるし、証拠の品も手に入れた。ここはひとつ私が間に入って、事態の収拾に努めることにしよう。
 先程も述べたが、この一連の謎に対して、私には、ある仮説がある。当たり前と言えば、ごく当たり前の推理なのだが、まず、これしか正解はないだろう。この際私は、、気短かな妻と、気弱なキューセーシュ君のためにも、この謎解きの、結論からズバッと告げることにした。あたかも名探偵を気取った口調で。
「違うんだよ、民子。ワタシの仮説が正しければだな、このキューセーシュ君は、いいかい?その黄色いチラシの犠牲者というべき存在なんだよ」
 妻が、訳が分からないという顔をしている。キューセーシュ君も、同じような顔をしている。
 私は、2人の顔を交互に見ると、ふふふと口角を上げて説明を続けた。
「この電話番号049−×××―××××は、君のイエデンの番号だろ?絶対、そのはずだ。そうでなきゃ、君のところに電話が架かってくる訳がないものね。でも、君は、こんなチラシなんて知らないと言う。
 つまりこういうことだ。君に救いを求めてきた電話ってのは、この救世主派遣センターの誤植、そう、ミスプリントによるただの間違い電話だったってことなんだ」
 実に阿呆らしい程に単純明快。妻が、えーっ、それだけなの?って、顔をしてから、数秒後にお世辞使って損したって顔に変わっていく。
「どうだい?ご名答、だろ?これで君も、訳のわからない電話の理由も分かったし、ウチも無駄な出費をせずに済んだってことで、まあ、お互いに一件落着という訳だ」
 私は、黄色いチラシを妻から奪い返すと、チラシの一番下の電話番号を指して、キューセーシュの青年イヤミ君の顔を覗き込んだ。彼は、暫く電話番号を見つめた後、また、あのと1度だけ言ってから、顔を上げて
「も、申し訳ないんですが、僕んちイエデン、ないんです。仮にあったとしても東京都の23区内なんで、市外局番は049じゃないはずです。そ、相談の電話は、毎回、僕の携帯に架かってくるんです」
 と、私に言った。
 あんなに自信たっぷりな名探偵を気取ってしまった台詞を吐いてしまった私の目の前が、一瞬で真っ白になった。推理が根本から覆されてしまった私は、まさに五里霧中。迷宮。ラビリンス。

第10回「羽付き餃子とちゃっきり節」へつづく



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posted by maruzoh at 16:38| Comment(0) | ◆お取り寄せ救世主 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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