やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。












   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジャー・ウォブルさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


2019年04月18日

お取り寄せ救世主 第6回 いつの間にやら救世主


6.いつの間にやら救世主


 私の青年イヤミ君を見つめる連帯感を伴った視線に、また少しずつ、疑問の影が落ち始めているようだ。
 それを敏感に察した彼は、また、もじもじを微妙に発動させる。
 でも、だって、やっぱりどこかおかしいだろう?相談に乗って欲しいのは、実は、僕の方ってのは、あれ、どういう意味よ。私も迷える子羊ですとでも言いたいのだろうか。いやいや、そんなニュアンスではなかった。
 私は彼の、その周囲を煙に巻くような言葉を聞いてから、一度収まったはずのジグソーパズルのピースが、実は微妙に違っていて、実は正しいピースをはめ込んだら、全体像自体がすっかり変わってしまったという様な、そんな気分にさせられていた。
 1つの綻びが気になりだすと、彼の言っていることは、全てにおいて矛盾していて、まるで辻褄が通らないような気がしてならず、本当の本当に、こいつは、純粋に妻の被害者なのだろうかと、でないとするなら、やはり、インチキ営業マンか、カルト信者なのではないかと、思考はまた、当初の堂々巡りに舞い戻ってしまうのである。
 しかも、だ。青年イヤミ君は、自分のことを「僕は、キューセーシュ、だと思うんですが」と言って、どういう訳か、敢えて、断定を回避している。これは、どういう訳だ。
 よし、ここは、根本に立ち返ろう。一つ一つ質問し、事実を確認することによってもう1度ジグソーパズルのピースを、組み立てなおそう。
 私は、気づかれない程度に軽く深呼吸をすると、青年イヤミ君に、こう質した。
「でもね、君。君は、救世主なんだろう?」
「は、はあ。そうなんだと思います・・・」
「さっきも言ってたけど、そうなんだと思いますってさ、それ、どういう意味なんだよ。だって、君が自ら、自分は救世主だから、相談に乗って、悩み事を解決しましょうってチラシを作成して、撒いて、それでここに来た訳なんだろう?」
 青年イヤミ君は、またプルプルと首を振った。
「あ、あの、違います。ぼ、僕・・・」
 この男は、いったい何を言いたいのだろう。恐怖と緊張のあまり正気を失ってしまっているのだろうか?
「いいかい?しっかりするんだ。もう1度だけ聞くからね。君は、自分が救世主だっていうチラシを作成して、ここいら一帯のポストに、撒い、たん、だよ、ね?」
 私は、青年イヤミ君の眼を見据えて、一字ずつ区切るように、はっきりと発音して言い聞かせた。
 またしても、暫しの静寂。彼の、唾を飲み込む音が、聞こえた、気がした。
「あ、あの・・・」
「もう、あのあのは、いいからさ」
 鼻から漏れたような、冷たい言い方だった。
「あ、あの、ぼ、僕、チラシなんて、配ってません。本当です」
「・・・・・・・・」
 私は、絶句した。一体全体、どういうことなのだ?
「じゃ、じゃあさ。ウチの女房が見たチラシってのは、何なんだよ。仮に民子がだなあ、ありもしないチラシを見ただなんて私に嘘をついたとしよう。でも、何だって君のとこに、民子は電話なんかしたんだい?見ず知らずの君に電話する理由なんてありはしないだろう?」
「さ、さあ、ぼ、僕にはわかりません。僕は架かってくる電話を受けただけなんですから・・・」
 私の中の何か、恐らくこれが堪忍袋の緒なんだろう、それがプツンと切れる音がした。
「だったら、民子がどうしてお前の電話番号、知ったんだよ。下手に出てやりゃ、つけ上がりやがって。なめてんのかお前」
 青年イヤミ君を怒鳴りつけているうちに、私は自分の心の弾けた箍(たが)がシュルシュルシルっと、天まで伸びていくのを感じていた。
「さっきお前、言ったよな。自分がキューセーシュ、だと思うってさ。百歩いや千歩譲って、お前がチラシを撒かなかったってんなら、民子は、キューセーシュ探しの超能力者か?突然天啓が来て、電話番号が、頭に閃くとでも言うのかよ。
 大体それ以前の問題として、キューセーシュだと思うって、それ、どういう意味だよ。自分を断定できねえお前は、一体何モンなんだよ」
 私のあまりの剣幕に青年イヤミは、顔面を蒼白にさせて、俯いて、眼を逸らしたまま、地面に向って、叫んだ。
「だ、だから、僕にも、何がなんだかわからないんです。この2〜3日の間、急になんです。訳のわからない電話が次々に架かってきて。助けてくれだとか、救ってくれだとか、泣きつかれるんです。
 ついつい聞いちゃう僕も悪いんですが、病気を治してくれだの、貧乏で金が欲しいだの、大地震が心配だの、地球温暖化は大丈夫かだの、相手が真剣だから、切れないんですよ、電話。
 その内に、相談と言うか、要求がエスカレートしてきて、どの株が上がるかだの、彼女が欲しいだの、クルマを買い換えたいだの、雨漏りを直してくれだの、レンジが故障しただの、新元号の対応はどうしたらいいかだの、果ては、毛じらみの駆除方法だの、お勧めの風俗店だの、パチンコの攻略法や、競馬の予想に至るまで相談受けて、仕舞いには、お宅の奥さんに、丑の刻参りだって脅されて。
 僕だって、何がなんだか、さっぱりわからないうち、いつの間にか、キューセーシュってのに、されちゃったみたいで、うっ、うう・・ ううう・・・ 僕、どうしたらいいんですかぁ?
お願いです、た、助けてください」
 青年イヤミ君は、嗚咽を漏らしている。マンションの廊下には、先ほどの魂を絞り出したような救世主の激白の残響音が微かに響いていた。

第7回「藁をも掴む救世主」へつづく



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posted by maruzoh at 23:12| Comment(0) | ◆お取り寄せ救世主 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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