俺様とマリア volume.94 チーム神龍
再び舞台は、物悲しさと虚脱感の漂う、さながら祭りの後のようなリング上に戻る。
神龍はB・Bたち3人に向き直ると、それぞれの眼を1人ずつ射るように見詰めてから、一語一語を区切るようにして、こう言った。
「渋谷チャンプ。
さっきの試合では表舞台を目指せだなんて、
散々偉そうな講釈をたれておきながら、
行きがかり上とは言え、何の縁(ゆかり)もないあんたを
俺たち野良犬同士のくだらねえ縄張り争いに巻き込んじまった。
すまねえ、この通りだ、B・B」
巷では傲慢、非情を絵に描いたようだと言われている神龍に、思いもかけず頭を下げられたB・Bは、その洗練された出で立ちとは裏腹に、まるで体育会系の中学生が初めて告白を受けたかのように、ドギマギと顔を紅潮させて照れ臭そうに応えた。
「な、なあに、あれは俺が勝手に立候補したまでさ。
それに縁がないわけじゃねえ。
あのオバサンとは、いずれ白黒つけるところだったんだ。
言わば、利害が一致したってことさ。
まあ、表舞台に行く前の卒業試験にさせてもらうよ。
気にしなくていいぜ、神龍の旦那」
神龍は「ありがとう」とでも言うように眼を伏せた。腹から話せたんだろう、硬さの取れたB・Bがその大きな右手を差し出すと、神龍の品のいい白い細い手が何の躊躇も無くそれに応じた。
長い握手の後、神龍は次に花ちゃんと正対する。
「伝説の喧嘩師ステゴロの花。
噂にゃ聞いてはいたが、まさか今日、ここで実物と会えるとは思ってもいなかった。
今回はリンダが暴走しちまって、とんだ迷惑をかけちまった。
その詫びもすまないうちに、今度はこの騒ぎときたもんだ。
つくづく虫のいい野郎だと笑ってくれ。
ただ、奴らシールドの戦力に対抗できる男は、新宿には何人もいない。
その1人がステゴロの花、あんたなんだ。
不義理を承知でもう1度頼む。
新宿の街の為に一肌脱いじゃもらえねえか?」
花ちゃんは相変わらず花ちゃんだった。相手がたとえ誰であろうと、いつもと変わらぬ屈託の無い笑顔で応える。花ちゃんはその名の通り、太陽に向かって咲く向日葵そのものだ。
「良いってことよ、さっきも言ったろう?
男と女の話は、色々と奥が深いんだよ。
オイラ、何にも気にしちゃいねえから、安心しろよ。
それに、カトさんから譲り受けた屋台とあの店はオイラの宝なんだ。
新宿1丁目をあのディーンの野郎から守るためなら、
いいよ、いくらだって手を貸すぜ」
今度は神龍が差し出す右手に、花ちゃんが丸太のような腕でがっちりと握手をした。神龍の顔にやっと笑顔が戻った。
さて次は、元ゴクのアンちゃんの番だ。ふてぶてしく腕組みをした大男を見上げて、神龍は1つ深呼吸をしてから声を掛けた。
「この新宿最凶トーナメントの16選手の人選をするに当たって、
正直俺はあんたを入れるべきかどうか、最後まで悩んだんだ。
それはもちろん超合金ニューZからの攻撃力、防御力が、
人類のそれを遥かに凌駕しているという報告を受けていたからだ。
しかし、それでも俺はもう1つその報告書を信じ切れずにいた。
大袈裟な報告だと高を括っていたと言った方がいいかもしれない。
ところがどうだ、今日、実際にあんたの試合を見て、
俺は久しぶりに背筋が凍りつくような戦慄を覚えた。
確かに人間凶器、リアル改造人間の異名は伊達じゃない。
報告以上のとんでもないモノを見せてもらったよ。
あんたもシールドに対抗し得る選ばれし戦士の1人だ。
俺からも改めてお願いしたい、元獄真会館の姉小路公望」
は? おいおい、ちょっと待ってくれ。
今、一瞬俺様は我が耳を疑っちまったが、神龍は元ゴクに向かってなんて言った?
「あねのこうじぃ?」
「きんもち、マジかよ?」
思わず口を衝いて出ちまったんだろう。花ちゃんとB・Bが眼を剥いて元ゴクの姉小路公望を凝視している。やっぱり俺様の聞き間違いじゃなかったんだ。それにしても、あの角刈りの先天性武闘派が、そんな華族様みたいな名前だったとは・・・。ギャップがあるにしても限度があるぜ。これは誰だって驚きを通り越して笑っちまう。見ればB・Bが真っ赤な顔をして、必死になって笑いを堪えている
一方元ゴクは、そこには触れて欲しくなかったんだろう、青筋をピキピキさせて憮然と腕組みをしたままだ。そう言えば初めて会った時からこいつ、自己紹介って「元獄真会館」ってしか言ってなかったもんな。よっぽどこの名前に嫌な思い出があるに違いない。神龍も下手を打っちまったって表情で、二の句を継げずにいる。
かなりヤバい緊張感が俺様たちの間に漂い、早くもチームに亀裂が入るようなキナ臭い空気が流れ始めたんだが、それを救ったのは、やっぱり花ちゃんの底抜けな明るさだった。
「か、かっけーなぁ、あねのこうじ、きんもちかあ。
まるで天皇陛下の親戚みたいな名前だな。
すげえなあ、姉小路。
オイラなんか、花田一平太だもんな。
どう聞いたって、生まれも育ちも違うって感じだよな。
それに、何たって強そうじゃねえか」
それを聞いたB・Bと神龍、当の元ゴクまでもが、吹き出して大声で笑い出す。もちろん俺様も腹筋がよじれるほど笑わせてもらった。
一頻り笑った後、神龍と元ゴク、いや、元ゴク改めアネキンががっちりと握手をして、さあ、いよいよチーム神龍のスタートだ。
【To be continued.】
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