やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2014年09月09日

【エッセイ】丈六堂


【エッセイ】丈六堂 


 正月気分もやっと抜けたころ、関東と山梨県に雪とテレビが報じた。期待していたのにこちらは冷たい雨で終わってしまった。
 定年後、もとの会社に嘱託として勤める夫は、金・土・日が休みで、三日続けて家にいることはまずない。洗濯物を干しながら「山梨にはまだ雪、残ってるかしら」と水を向けると
「雪見にゆくか……」と、すぐのってきた。
 何回か来ているのだが、この身延山久遠寺の本堂の前に立つと、無宗教の私もすがすがしい気持ちになる。今日は何かのお祭りなのか、それとも大きな講の団体でも入っているのか深山の寺の広い庭は人でいっぱいである。昼時でもあり、本堂の階段で弁当を開ける人、そろいの弁当の折を抱えて大声で人を集めている人。トイレは外まではみ出す行列である。人の熱気で解けたわけでもあるまいに雪はどこにも見当たらない。一通りお堂を巡り、ロープウェイで奥の院の思親閣へ行き、深山幽谷を堪能するために出てきたのに拍子抜けだ。ロープウエイ乗り場の手前に、思親閣への登山道がある。「この時間からだと上までは無理でも、途中の丈六堂まで行ってみようか」と夫。
 こちらは修行の道にふさわしく、上り坂がくねくねとどこまでも続く。初老の夫婦連れのハイカーに二、三組すれ違う。ロープウェイで上り、下りを歩いているのかも知れない。信者らしい婦人グループが「ご苦労さまです」と声を掛けてくれた。常緑樹の多い中に南天の赤い実が映えてまるでお花畑のようだ。雪など木陰にも岩陰にも残っていない。以前はここが奥の院へのメイン通りだったらしく、道に向けていろいろな有名人の墓や碑が立っている。外人のキャピタンの墓もあった。
 道が上りながら大きくカーブした所に建物が見えてきた。上り詰めで喉はからから。「どこかに自動販売機なんか……無いよね」。とタイミングよく建物のガラス戸が開いて「休んでお茶でもどうぞ」と尼さんが顔を出した。「有り難うございます。先に仏さまを拝ませていただいて……」と通り過ぎたが足音や話し声が聞こえたのかもしれない。それほど静かだ。
 丈六堂の前面はガラス戸がぴしゃりと閉まり光線の関係か内部は見にくい。夫が帽子を脱いで光を遮って「こうすりゃ見えるよ」というので、私も真似てみた。目の前に足の部分が見えた。目を上に転じると、あっと声が出てしまうほど大きなお顔がはるか上から見下ろしている。その下に右手を前に、左手を下に向けてすっくと立っていらっしゃる。圧倒された。こんなに大きな仏さまはそうめったにない。丈六というのは「もしかしたら一丈六尺ってことかしら?」「すると五メートル近いな」。私たちはガラス戸にへばりついて帽子をかざし目を凝らした。気がつくと二人のおばあさんとミニスカートの娘さんが石段を上ってくる。
「いま開けますから」。信心深そうな小太りの方がガタガタ戸を開けてくださった。他の二人は当然のように先に入ったので「いいんですか?」と聞くと「どうぞどうぞ」自分も入ったので、私たちも続いて入ってしまった。三人が仏さまに向かって左側に座ったので私もその隣へ座ろうとしたが座布団があるのでためらっていると「そこは庵主さんが座るから──」。私は慌てて右側の夫と並んで座った。まもなく庵主さんが音も無く入って来て「あなた杉浦さん?」と聞かれた。「いえ通りがかりのハイカーです。あんまりいい仏さまなので──。ここに居てもいいですか」「はいはい」。目の前に丈六堂縁起のパンフが輪ゴムで束ねてあった。「いただいていいでしょうか」。庵主さんはまた「はいはい」。私は二部頂いて賽銭箱に二百円入れた。
 突然庵主さんのテンポのいいお経が始まった。かなりの年配にお見受けしたが、張りのあるいい声である。左側の三人も唱和している。娘さんもなかなかなのには驚いた。長いお経である。仏前をうっとり見上げているうちに一部が終わった。夫は?と見るとどっかりあぐらをかいて、恍惚の境地だ。
 すかさず次のお経が始まった。木魚、時々太鼓も入ってだんだん盛り上がってくる様子。いつここを退出したらいいのだろう。こちらはだんだん冷めてきた。「次、出るよ」と夫を見ると座り直して出る支度をした。お経が山を越したので目で合図して「有り難うございました」と出てきた。石段を下りながら「出るに出られぬ丈六堂」と夫。
 道を隔てて少し低くなった所に無数の無縁石仏群がある。京都・化野の念仏寺のようだ。
 帰りの電車の中で読んだ「縁起」によると、四十年かけて全山から無縁仏を集めた人がいて、尼さんたちが洗い清めてここに安置し、供養しているとのこと。堂内の丈六釈尊像は徳川家康の即室お万の方が願主の寄進で、丈六堂は尼さんの研修所のような所で「尼衆寮」という看板が出ているとある。夫は雪はみられなかったが、尼さんの研修所で題目を唱えるという貴重な体験をしたわけだ。

   《終》





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posted by maruzoh at 07:52| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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