俺様とマリア volume.92 神龍の出した条件
まるで瘧(おこり)が憑いたように震えだしたリンダの肩を抱いたディーンは、落ち着いた口調で神龍に向き直った。
「なるほど、そう来ましたか。
流石は新宿でトップを張る神龍さんだ。
貴方を知り抜いているはずのこのリンダ嬢がこの通りということは、
このまま私たちが強硬に事を進めようものなら、
何のためらいも無く貴方は、彼らに引き鉄を引かせるんでしょうね。
大した胆力だ、恐れ入りましたよ」
リンダとは対称的なその冷静沈着且つ冷徹な眼からは、これからの神龍との心理戦の2手3手先を読み切って、相手に傾きかけている主導権を奪い返してやろうという意志の強さが感じられた。
一方神龍は、これで流れを引き戻したと感じた余裕からか、それとも逆に逸(はや)る心を落ち着けるためか、シガレットケースから細身のタバコを取り出すと、やはり細身なのにダイヤがごてごて張り付けられたライターで火を点けた。ライターの炎はまるで揺らぐことなく、真っ直ぐに天井を指している。この緊張感溢れるリング上でも、神龍は全くの平常心だってことらしい。
「ブクロの噂は聞いてるよ、IWGPのディーン安武だったな。
挨拶は抜きで、手短にさせてもらうぜ。
悪いが俺は、歯の浮くようなおべっかは好きじゃねえんだ」
ふうっと吐き出された紫煙が、カクテルライトに溶け込んでいく。神龍は続けた。
「お前ら4人が、このリングを自分の足で降りて帰りたいんなら、
俺が出す条件を丸ごと飲むしかないことは、もう分かってるな。
なあに、そんな無茶な条件なんて出すつもりは、更々ねえよ。
だって、そうだろう。
俺ら神龍ファミリーからしてみりゃあ、
切欠さえあれば落とそうと狙っていた池袋、中野、練馬って鴨が、
葱の入った鍋背負って、一升瓶までぶら下げて来たようなもんだからな。
全くありがたい話だ」
神龍の目付きが少し変わった。紛れも無い勝負師の眼だ。
「ちょ、ちょっと、な、何勝ち誇ってんのよ。
なんでアタシたちがアンタの条件を一方的に飲まなきゃいけないのよ。
じょ、冗談じゃないわよ」
リンダが恐怖を振り切るかのように金切り声を上げるんだが、かえって己の底の浅さを露呈するばかりで、どうにも役者が足りねえ。
神龍が苦笑しながら応えた。
「ふふふ、相変わらず身勝手で話の分からない女だな。
身内でいる分にゃ、それもある意味使い勝手があったが、
反目に回った今は、ただのわからず屋のヒステリーだな。
分かったよリンダ、じゃあ、お前とは交渉決裂だ。
お前だけは普通のライフルで十分。
早速通路奥のスナイパーに狙わせるとしよう。
逃げたりすると急所を外しちまうかもしれねえから、
最期に痛くて苦しい思いをすることになる。
そのまま動かずにいて、1発で仕留められた方が楽だぞ」
ディーンが真っ青になったリンダをその大きな体で隠すように1歩前に出た。
「まあまあ、そんなに急がないでくださいよ、神龍さん。
リンダ嬢は、後ほど私が責任持って説得しようじゃありませんか。
で、何です、その条件っていうのは?
早速お聞かせ願おうじゃありませんか」
神龍は燻らせていたタバコをリングサイドに吐き捨ててから、笑顔でこう言った。
「そうだな、今から2ヵ月後にしようか?
お互いのテリトリーを賭けて、何でもありの団体戦をやろうじゃねえか」
「な、何でもありの・・・」
「だ、団体戦だって?」
「マ、マジかよ」
ディーンやリンダだけじゃない、俺様も花ちゃんもマリアも、B・Bや元ゴクだって驚きの声を上げちまった。会場中もざわつき始めている。そんな中、神龍はいかにも楽しみだという風に続ける。
「勝負は特製リングでの時間無制限引分けなしの1本勝負。
KO、ギブアップ、死亡によって勝敗は決する。
もちろん、武器の使用以外は全てOKのリアル・ヴァーリ・トゥードゥだ。
これを先鋒、次鋒、中堅、副将、大将による5戦で争う。
お前らは池袋のシールドの3人と中野と練馬から1人ずつでちょうど5人だ。
こっちは根無し草のEノイズとステゴロの花、元獄真会館の新宿3人と、
渋谷チャンプの“バーニング・ブラッド”B・B。
それと、もう1人は俺に心当たりがあるから任せといてくれ。
詳細は、後から連絡するよ、どうだい?
腕に自信があるなら、異存はねえだろ、ディーンさんよ」
ディーン安武は、リンダを一瞥してから余裕の表情でゆっくりと頷いた。
【To be continued.】
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