【エッセイ】会 話
「お昼、何食べたい?」
「何でもいいよ」
「昨夜のすき焼きの残りに、ねぎと卵を入れて他人丼で済ましちゃおっと」と立ち上がる。
「えぇ?肉は当分食べたくないね。何かあっさりしたもんでいいよ。そばとかさぁ……」
「うちはそば屋じゃないんですからね。急に言ったって、そばなんて出てきませんよ」
「じゃ、うどんとか。ラーメンとか」
「うどん玉二つあった。じゃ、月見うどんふたつですね」
二、三日買い物に出ていなくて冷蔵庫にはうどん二つと卵ぐらいしかなかったのだけれど……。
先日のお祭りのとき、祝儀袋をもって
「これでいい?」と、指を三本たててみせる。
「こっちだって片手らしい」と、裏の家の方角を指す。
「何でも上げるのは簡単だけど、下げるのは難しいのよね」
私は仕方なくきのうから選んでおいたピン札入りの袋を夫に渡す。
長年連れ添った夫婦は空気のようだというけれど、至言である。相手を利用して言い訳したり、確認したりしている。
私は、歩きながら考えごとをしているときや、じっと考えごとをしているとき、気がつくと自問自答していることがよくある。人は対話をしながら成長したり、発達してきたのかもしれない。
(平成十年二月)
《終》
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