やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年12月24日

【エッセイ】当番


【エッセイ】当番 


 玄関の戸を開けると雨である。「あー」と溜息が出た。今日は、市主催の公民館での中国語講座の日である。私は今日、受付順に回ってくる当番で、そのうえ初めての試みで、授業の変わりに中華料理を作るというのだ。私は中華料理を食べるのは得意だが、正直作る方は得意ではない。材料費を集めたり公共施設での火の取り扱い、今話題のO157のこともある。事務所へ出来上がったものを一人分ぐらい届けるべきか…、頭の中は堂々巡り。うつうつと雨の中を歩いた。
 「早上好!(シアマシロンハオ)」と調理室のドアを開けると、先生が二歳の男の子を連れてきていた。先生は三十歳の中国人で、この街の人と結婚し、授業の時は姑さんに預けて来ていた。今日の参加者は十五人とのこと、子供連れもいいとのことで幾人になるか分からない。
 段ボールを抱えた男の人が二人、肩でドアを開けながら入ってきた。材料が届いたのだ。当番はやはり早く来て良かった。ひとりは中国語の生徒で四十歳の気功の先生をしているというEさん。先月も中国へ行ってきたという行動派。もうひとりはEさんの気功の生徒でスーパーをやっている人だそうだ。開店前に届けてくれた。女性軍もだんだん集まって子連れも三人ほど。独身に見えた髪の長い人は可愛い女の子を二人も連れてきた。
 「さあ、皆さんよく手を洗ってから始めてくださいよ」。Eさんは消毒用の薬用石鹸を流しのへりに置いた。年嵩でもあり当番の気の利かない私はどっきり――。ほとんどが主婦なので手際よくエプロン姿になると、それぞれいつもと違う顔がみえた。家の中が見えるような気がする。
 スーパー氏はワイシャツの袖をまくって「餃子の皮練って上げますよ」とボールに粉をあけた。「この人中華料理の名人だから」とEさん。私は安心して材料費の計算に取り掛かった。主婦の目で見ても韮や葱、生姜など鮮度もよく値段も安い。開店前に届けてくれたり、下ごしらえの手伝いまでサービス。私は少し余るが六百円ずつを集めて二千九十円をスーパー氏への手伝いのお礼にしたらと思い先生に相談すると、そうしようというのでそう決めた。スーパー氏の手際いい指導で仕事はどんどんはかどった。開店時間らしく「お礼までもらっちゃ悪いな」とスーパー氏は帰った。これで半分以上の仕事は終わったぞと私はほっとした。
 「あっ、大変!油頼むの忘れた」と先生。「私バイクだから――」と若い人が飛び出してくれた。「二九八円!」。ああ、もう少し前だったらとまた溜息。私が出して知らん顔していようと思ったが、そうだ子連れの人が三人いたことを思い出し、百円ずついただこうと思いついた。「たった百円でいいんですか?」「子供割引になっておりまして――」といってめでたく会計は帳尻を合わせた。
 中国料理といっても今日のメニューは餃子と棒棒鶏、麻婆豆腐だけである。日常のお惣菜だからみな慣れたもの、どんどん出来ていく。
 さて私も手伝わなくっちゃと流しを見ると、大鍋をふたりの男性が洗っているのには驚いた。今日参加の男性三人のうち、若いEさんがいまも女性の中央に立って笑わせながら餃子のたれの作り方の講習しているのと対照的だ。若い奥さんたちはおしゃべりをしながら皮を延ばしたり、包んだりするのは好きだが、鶏を茹でた鍋など洗うのはお好きじゃないようだ。「私、洗いましょうか?」と手を出すと「いいですよ、慣れているから」と国鉄職員だったという七十歳のSさん。「愛妻家なんだ」「女房はもうばあさんで、少し手を貸さないとなかなか食事にならないからね」と笑った。三年前に一人で世界一周してきたといっていたが、結構優しいんだと思った。隣でやはり大鍋を洗っている元中学の英語の先生は「不器用だから、僕の作った餃子がはぜちゃったりしたら、大迷惑だから」とごしごし洗っている。授業中はいつも元気のいい優等生が今日は妙に控えめに見える。
 材料費は六百円なのに、山のようにたくさんできてテーブルに盛られた。味も申し分なく満腹してまだ残った。とうとう先週習った好吃(ハウチー おいしい)という言葉以外、中国語らしいものは一つも聞かれず終わってしまった。事務所へも昼前にお盆にのせて届けた。五人の子供たちはもうすっかり友だちになって、屈託なく遊んでいる。
 私は最後の仕事、当番日記を付けなくてはならない。光熱費・会場費は無料の公共施設を使わせていただいた成人学校の振り替え授業なので「一辺做中国采 一辺学習文」(イーペンシオチュンゴクサイ イーペンシェシェイチョンウェン 中国料理を作りながら、中国語を学習した)と書いておいた。

《おわり》



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posted by maruzoh at 13:47| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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