やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年12月18日

【エッセイ】シルバーヨガ


【エッセイ】シルバーヨガ 


 公会堂の前にシルバーカーが置いてある。もうAさん来ているなと思いながらドアを開けた。Aさんと先生は窓際に寄りそって熱心に話し込んでいる。ここは狭い靴脱ぎ場があって、すぐ畳三十六枚を長方形に敷いただけの地域の小さな公会堂である。
Aさんは、小柄な体を二つ折りにするように曲げて、百メートルも離れていない家からシルバーカーにすがるようにして、ここまでやってくる。私が子どものころよく見かけたが、最近こういう年寄りは少なくなった。
 先生はもう何十年もヨガをやっているが私より十歳上の七十九歳である。しかしさすが長年のキャリアで、いつでも座っての開脚で胸が畳につく。
「隣へ回覧板まわしに行って少し立ち話していても、いつまで油売ってるんだいっていわれてさ。九十五で逝くまでボケるどころか毎日椿油つけてたからね」
 しっかり者の姑の話の続きらしい。
「でも、ダンナさんがやさしいから救われたよね」
「義母さんにゃもっとやさしかったよ。誰にでもやさしい男なんて、誰にもやさしくないってことさ」
 昔の女学校を出ているというAさんは、見た目に似合わず理詰めだ。今年七十八歳のAさんは、この年では珍しく車の免許を持っている。つい最近まで、あの体で車も耕耘機も運転していた。
 なさぬ仲の義母の強いすすめで、二十歳で地主の大農家に嫁いできた。今は家がびっしり建っているが、当時は片田舎だったそうだ。家には舅、姑のほか、小姑が五人いた。その中で自分の子三人も育てた。
 一反歩いくらだった土地は、坪いくらの時代に変わり、小姑たちの独立には、みんな土地付きの家を建ててやった。そして今、古くて、広い家に八十歳の夫と二人暮らしだ。
 メンバーはいつも十人前後、今日は八人だ。
 今年八十六歳の最年長のHさんはほとんど休まない。同居している長男の嫁のことを「お母さん」と呼んで穏やかに暮らしている。そのHさんが過去二回も、もらい火による火事にあった話は、お花見の昼食のとき聞いた。焼け出され遠縁を頼ってこの町に住みついた。
「ピンピンコロリが私の望みさ」
 他人事のようにからから笑う。
「さあ、始めましょうか」
 先生の声でお喋りをやめて、それぞれが持ってきたバスタオルの上に正座する。
「お願いします」
 と合掌して始まる。
 ヨガは、一時半から二時半まで一時間びっしりやる。激しい動きの後に、やすらぎのポーズというのがある。肩幅に足を開いて、上を向いて寝る。二、三回大きく腹式呼吸をして、全身の力を抜いてリラックスし、楽しいことを連想する。
 五分くらいして
「やめてください。次は──」
 先生の声が掛かっても、動かない人がいる。私も一度、クッと眠ってしまい、大慌てしたことがあるので、人のことはいえない。
 今日も、途中で何か変な音がした。もしかしてと笑いを噛み殺したが、誰も笑わない。みんな知らん顔して続けている。
 最後はオームを二回やる。大きく息を吸って、オーと大声を出し、途中から口を結んで鼻から息を出しながらムーと続ける。
 全員が六十五歳以上で、持病を抱えたり薬を飲んだりしている人ばかりだから、それはそれなりのヨガではある。特にAさんはやれることは余りなくて、気持ちだけでやっている。知らない人が見たら、何してるのだろうと思うかもしれない。それでも終わると五キロくらいは体重が軽くなったような気がする。
 毎週木曜日を待って、重い腰を上げてここに集まってくる人たちは素晴らしいことだと私は思っている。大正・昭和・平成と激動の時代を生き、それぞれみんな小さな女性史を背負って生き抜いてきたのだ。
 昔の老いは、生活の手段にしろ、生きる知恵にしろ、若い人に教えるという面があった。しかし、電化、さらにIТ化が変化について行けないマイナス面を多くした。
 小さな蛇口から細々と流れ込むお湯で、いつの間にか温泉の湯がすっかり入れ替わるように、時代は知らぬ間に世の中を変えていく。私たちも、今の七十,八十代とは少し違った新老人になるのだろう。
 今日も、すっきりした気持ちで公会堂を出た。「来週もみんな元気に会いましょうね」と、手を振って別れた。

《おわり》



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posted by maruzoh at 18:06| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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