やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年12月06日

【エッセイ】人の心と海の深さは測り知れない


【エッセイ】人の心と海の深さは測り知れない


 今年のお盆は、二人の息子がそれぞれの家族を連れて帰って来て、楽しい、暑い、忙しいお盆だった。新幹線の新富士駅へ長男一家を送り届けると、どっと疲れが出た。
「骨休めにどこか手近な温泉にでも行きたいわね」
「盆も過ぎれば伊豆なら泊まる所もごまんとあるから何とかなるだろう」
 たかをくくって出掛けたが、甘かった。洋ランセンターと土肥金山を見ただけで、二軒訪ねた案内所でもすげなく断られ、コバルトアロー号という高速船で沼津港に夕方帰りついた。
 何となく不消化の気持ちと、二日分の着替えを入れたバッグを持って、身延線への乗り換えの富士駅のホームに降り立ったのは、夕方の七時を過ぎていた。私たちの降りる西富士宮行きが十五分後ぐらいに出て、さらに二つ先の芝川行きがその十分後ぐらいに出るというアナウンスがあった。身延線のホームにまだ人はまばらだ。売店近くのベンチが空いているので、よっこらしょと座った。目の前を外国人とおぼしき若い女が通った。睫毛が長く色は浅黒い。遅れてきた夫が私の右隣に座った。私たちの後ろに反対側を行く女が見えたが、戻って来て空いていた夫の右隣に座った。
「これ甲府に行きますか」
 目の前に停まっている電車を見ながら、女はたどたどしく聞いた。
「行かない、行かない。確か次のも芝川までだよ」
 ちょっと気の動転した夫はすっと立ち上がって、二十メートルも離れた時間表を確認しに行った。
「これも、その次も甲府までは行かないよ。時間も遅いし同じ待つなら、この駅で待っていた方がいいよ」「はい」 どの程度分かったのか、心もとない返事である。夫は荷物を置いたままふいと立って行った。タバコを吸いに灰皿のある喫煙所へ行ったらしい。
「バッグを見ててください」
 私の左側に座って一部始終を見ていたらしい老婦人が突然立ち上がって時間表のところへ小走りに行った。見るとキャリアウーマンが持ちそうな黒い横長のショルダーだった。
「やっぱり一時間甲府行きはありませんでしたよ」
 老婦人はそういって帰って来た。私は狐につままれた思い。
「いえね、若い娘さんにいやに親切なこういうおじさんがいるじゃありませんか」
 夫が荷物を置いていった空席を指した。夫がどこか怪しげな連絡に急いで行ったとでも思ったのだろうか。
「可愛い顔したおとなしそうな外国の娘さんに何かあってからじゃ遅いから──。でも時間は確かでした」
 私はこのまま黙っていて夫が帰って来て私に話しかけたら婦人も困るだろうと思って、あっけらかんと空席を指して
「これ、うちの主人なんですけど……」
 婦人は飛び上がるように立って最敬礼をして付け加えた。
「申しわけありませんでした。人なつっこい親切な人だと思ったんですよ」
 女の子は聞いているのかいないのか、困ったような顔をしてぼんやり前を見ているだけ。夫が帰って来て荷物を膝に乗せて座ると婦人はぷいと向こうを向いてしまった。
 アナウンスがあって電車のドアが開くと婦人は飛び乗った。私たちも少し離れたところに席を取り、すぐ先刻の話を再現し私はくすくす笑い、夫は「くそばばあ!」と吐き捨てた。
 電車が動き出した。女の子はどうしたか気になって立ち上がって見たが、先刻のベンチにはいなかった。売店を過ぎて反対側のベンチにいるのが車窓から見えた。隣には中年のおじさんが何か話しかけていた。一瞬ええっ?と思った。もしかしたら「次の電車甲府まで行きますか」なんて言ってるじゃないのかな、もう七時過ぎである。「夕飯はまだ?」なんてご馳走になったりしているうちに、そんな時間になったりして──。もしかして新手の売春か、それに類したことでは?
 いくつかの駅を過ぎて例の婦人が降りてホームを行く後ろ姿が窓から半分見えた。年のわりには姿勢がいい。
「あの人、中学の家庭科の先生だったんじゃない?」
「いや保護司とか民生委員とかじゃないかな、くそばばあ奴っ!」
 あの娘は外国人だというのは確かだが、本当にあの時間に甲府に行くのだろうか。鈍行だから二時間以上はかかる、十時過ぎに着いて泊まる所はあるのだろうか。本当に行く気ならどうしてもっと早い時間に行かないのか。疑問はいろいろ残る。しかし、ぎりぎりそうなってしまうこともあるから一概には言えない。
 日常の中にもミステリーはいっぱいある。私たちはごく狭い常識の中で生きて、考えたり泣いたり笑ったりしているに過ぎないような気がした。

《終》



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posted by maruzoh at 20:45| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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