やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年11月20日

【エッセイ】地蔵菩薩


【エッセイ】地蔵菩薩 


「箱根の山に石仏がこんなにたくさんあったの知ってた?」
「知らなかった。何回も来てたのにね」
「ついこの前にも彫刻の森に来たばかり……。箱根って、いろいろの顔を持っているのね」
「都会から簡単にこられるのに深山で、温泉でしょ、美術館でしょ、あゝ旧街道のハイキング、山中城址、関所」
「三島の青年会議所の人たちが整備してハイキングコースに紹介したのは江戸時代の街道で今日見てきたのは、鎌倉時代の道だそうよ」
「そんな昔にも、こんな険しい山越えをしたのね」
「平安時代には御殿場から足柄を通ったのよ」
「へえーっ、箱根って大昔から日本を東西に分ける天下の剣だったのね」
 バスは快調に箱根の長い坂を下ってゆく。いまの国道一号線最高地点の標識の立っているあたり、約三百メートルの間に、道を挟んで石仏・石塔群が静かに立っている。現在は車で一瞬のうちに通り過ぎてほとんどの人は気が付きもしない。
 この「元箱根石仏群」は国の史跡と重要文化財の二重指定を受けているという。中でも一際目を引いたのは、山の頂にある高さ三メートル近い三基の五輪塔である。実に堂々として美しい。これは造形美という点でも格調高い美術工芸品だと思う。曽我兄弟の墓だといわれていたが、実は鎌倉後期に地蔵講の人たちが志を持つ人たちをはじめ皆が同じように幸せになれるようにと建立したものであることが、裏側に彫られた銘文で分かった。
 五輪塔を少し下がった道下の三角岩に二躰の地蔵菩薩が、さらに反対側の道下の大岩に二十三躰の磨崖仏があり、合わせて二十五菩薩といわれている。しかも二躰を除いてすべて地蔵菩薩である。
 さらに二子山の山裾に突き出た七メートルの巨岩に彫られた三メートル余のお地蔵様はすごい。体を少し前かがみ加減にした坐像で、やさしく人を迎える形で西を見ている。厳しい長旅の途中、この難所でこのお地蔵様に迎えられたらさぞかしほっとしたことだろう。
 平安末期の末法思想を受けて鎌倉時代は新しい宗教がいろいろ出てきたが、庶民の間には地蔵信仰が大変盛んだったようだ。これらの石仏たちの近くに、ちょっと上高地の明神池を思わせる、その名も精進池が静かに山と雲を映していた。
 無住国師の説話集『沙石集』によると、地蔵とは衆生(しゅじょう)を救うまでは成仏しないという悲願を立て、お釈迦さまから「無仏の導師」として付託された菩薩で「とこしえに六趣(六道)の巷に立ち、縁なき衆生すらなほ助け給う」と説かれている。六道とは天上(極楽)・人間・修羅・畜生・餓鬼・地獄のことで、死ぬと生きていた時の善悪の行いによって閻魔様がこの六段階に振り分ける。その時嘘をつくと舌を抜かれるらしい。そしてこの六道を輪廻して、永遠に成仏することはないという思想である。
「お地蔵さんて村はずれにポツンと立ってると思っていたけど、あの大きさや、集団で岩に彫られてたりすると迫力あるわね」
「ほんと、牧歌的に考えていたけど、あの仏様たちみていると、もっと深刻で必死にみえてくる」
「当時の庶民の生活って厳しかったでしょうしね。安寿と厨子王の時代でしょ。子どもをかどわかしたり、人買いがいたり、下人、所従(しょじゅう)なんて事実上の奴隷がいた時代だから──」
「文盲の庶民を地獄絵なんか見せて六道の教えでおどかしたりね」
「人権なんてないし、人間そのものも、今より素朴だったかもね」
「日本の歴史の中で庶民がこんなに幸せの時代はないんじゃない。いいたいこといって貧乏人が太って困ってるもの──」
 久しぶりに会った友人との会話も弾んだ。
 家に帰って本で調べると『地蔵菩薩霊験記』の中にこんな話をみつけてほっとした。
 近江の国の佐吉という農夫がいた。ある年の夏病気になり一月余りしてやっと全快したものの、その間に田の草が生い茂り、今年の収穫は駄目だと諦めた。ところが寺参りの帰り自分の田を見ると一本の雑草もなくなっている。驚いて近くで働いている人に聞くと、先刻七十歳ぐらいの坊さんが田の畦を残らず一ぺん通っていったのを見ただけだという。これは実は、日頃信心深い佐吉を地蔵菩薩が助けてくれたという話。
 こんなほほえましい話を含めて、誰にでも無条件にやさしい地蔵菩薩は日本人の中に根を下ろして今にも伝えているのではなかろうか。小さな旅で、お地蔵様に対する気持ちを新たにした思いがする。

《終》


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posted by maruzoh at 07:20| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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