俺様とマリア volume. 88 正義の執行と懐柔
「正義の執行だぁ?ふざけんなよ。
自警団風情が、てめえ、自分を何様だと思っていやがるんだ?
やれるもんならやってみろよ、こら。
てめえ、ぶっ殺して・・・」
長身の金髪がそこまで吼えた時だった。バチバチッという耳障りな音がしたと思うと、ディーン安武の胸倉を掴んだ金髪野郎は、その右手を反り返るように放して膝から崩れ落ちた。一瞬遅れて焦げ臭い匂い。
「急迫不正の侵害に対し権利を防衛するため、
止むを得ずに武力を行使し、排除した。
私と、そしてこの街の未来に対する、正当防衛だ」
ディーンの右手には、カーキ色に塗装されたスタンガンが鈍く光っている。くすんだ赤の「IWGP」のロゴが、まるで返り血のようだ。
「お、おい、マサル、だ、大丈夫か?」
小太りの茶髪が泣くようにして、倒れてピクリとも動かないツレに駆け寄った。しかし、マサルと呼ばれた金髪は、小太りが何度肩を揺らしてもぐったりとして目覚める気配すらない。
「そ、そのスタンガン、改造して出力上げてんだろう。
でなけりゃ、漫画じゃあるまいし、気絶なんかするわけねえよ。
お、お前ら頭がおかしいんじゃないのか?
空き缶をポイ捨てしたくらいで、マサルをこんなにしやがって・・・」
「全てはこの街の未来の為だ」
「だからって、やり過ぎだろ、こんなの」
「君たちのように他人の痛みを分かろうとしない連中には、
その痛みを身をもって知らせる必要があるんだよ。
どうやらそれは、お友達のマサル君だけではないようだな。
君にもお灸が必要らしい」
「・・・・・・・・」
小太りの茶髪はマサルを抱きかかえたまま、ディーンを睨み続けていた。2人を上から見下ろすディーンは、ふと表情を和らげると笑いながら言った。
「ほう、スタンガンを見せられて逃げずにいるか。
仲間を見捨てずに介抱しようとは、不良にしては感心だな。
ふふふ、君には少しは見所がありそうだ。
どうだい、改心して私たちの同志としてこの街を守らないか」
「ふ、ふざけんじゃねえ。
誰がてめえらみてえな偏執狂なんかと・・・」
ディーンは小太りの茶髪に歩み寄ると、胸ポケットから名刺を取り出して手渡した。
「私はディーン安武。
池袋西口自警団、IKEBUKURO WEST GARDIAN PARTY、
IWGPの団長をしている。
いいかい、過ちは誰にでもある。
もちろん私にもあった。
問題は、それを悔い改め、生まれ変われるかどうかなんだ。
せっかくこの世に生を受けたというのに、
自堕落に生きて何も残せないまま終わってしまうのか、
それとも、世の中に必要とされる人間になって生きた証を残すか。
君が選ぶ道は、2つに1つしかない。
但し、返事は今じゃなくっていい。
良く考えて、後日私に連絡をくれ給え」
マサルの上体を起こしてから背後に回り込んだディーンは、マサルの両腕をクロスさせて自らの片膝を立て背中に押し付けると一気に活を入れた。ディーンは息を吹き返したマサルの健康状態をチェックすると、完全に飲まれてしまった2人組に女子高生に対して当初言ったとおりの謝罪をさせた。
その野次馬の人ごみの中、ディーンの背中を凝視し続ける男がいる。額の禿げ上がった五十絡みのその男は腕組みをしながら何度も頷いて、小さく「これだ」と声を漏らした。西口商店街会長、千川要その人であった。
【To be continued.】
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