やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年10月17日

【エッセイ】図書館とわたし


【エッセイ】図書館とわたし 


「彼が帰った時、またお邪魔させてください」
「帰ってなくてもいいわよ、あんまりがんばって本業おろそかにしないでね。奥さんお大事に──」。
 持ち重りのする今日借りた三冊の本を左手に、右手にスーパーの袋を提げて図書館の正面玄関を出た。何ともこころ楽しいひととき。
 彼は埼玉に住む長男の友人で、正月に帰省した息子が帰る前の晩、お腹の大きい奥さんと三歳の娘さんを連れて訪ねてきた。彼は仕事の傍ら推理小説を書いていて、短編二編はもう彼の尊敬する作家の合格点をもらったという。四編にして出版するのだという。意外なところで出会ったので、向こうも驚いていた。しんとした館内なので声を潜めた十分ほどの立ち話。自分の息子たちは他市で所帯を持っていても時にはこんなおまけもある。若いオーラを浴びた気がした。
 私はいま五十八歳。小学三年生の時終戦だった。五年生の時だったと思う。この町にはまだ図書館がなかったのか、入山瀬という隣町にあった私立の「富士文庫」という図書館へ行ったことがある。電車で四つ目の小さな駅なのに、その頃は大旅行のように気負って行った。そのときの様子を「富士文庫へ行ったこと」という作文に書いたのが『岳陽文檀』という作文集に載った。セピア色の思い出である。
 高校時代は浅間神社の近くにあった市立だが小さな木造の図書館へよく通った。書庫は階下で、本の数も今では考えられないほど少なかった。随分古い本が主体だったような気がする。ひんやりした床に座って本の間にいると心が静まるのも感じた。閲覧室は狭い階段を上がった二階の和室で、そこに長い裁ち物板のような机が並んでいる。私は場末の小さな商店の娘で、六人兄弟の長女である。発展途上の世相の中で活気はあるが、狭くて繁雑で、落ち着きのない生活から抜け出るのを夢みていたのかも知れない。若さの驕りか世事にたけた大人たちのやりとりが疎ましかった。他人からはいつも賑やかな元気印にみられていた私が、図書館には一人で行くのが好きだった。ひとりでいられる場所が欲しかったのかも知れない。日に焼けた畳や、蝉しぐれがなつかしい。
 二十二歳で結婚し、二人の息子の親となった。下の子が小学生になった頃、アルバイトと家事の合い間に図書館に行き出した。そこは戦争中憲兵隊の駐屯所のあった所だ。戦後、専売公社の工場になり、さらに市立図書館になったのだった。家から歩いて五分ぐらいの所にあり、アジトが出来たようで生活が膨らんだ気がしたものだ。
 芹沢光治良の『人間の運命』を読んでいる時だった。この本は二部十三巻ぐらいあったと思う。楽しみにしていた次の巻がなくてがっかりして帰ろうとした時、思いがけなく隣の奥さんが入ってきた。手にまるで重箱でも抱えるように風呂敷包を持っている。その中身は私が待っていた『人間の運命』の次の巻だったとは──。奥さんとここで会うのさえ驚きなのに。私たちは三軒並んだ小さな建売りを買って、同じ頃隣合わせに入居した。が、それぞれに忙しく、子どもも男二人と向こうは女二人なので、ごく通一辺のお付き合いだった。これを機に、お茶を飲んだり本の話や子どもの話、果ては夫ぐるみで、飲み会や会食をした。その隣のご主人も四年前に六十歳で急死し、奥さんはいま入院中だ。
 高度成長期に、地方の箱ブームというのがあり、各地に不釣合いなほど豪奢な文化会館や体育館などができた。富士宮市にも立派な多目的ホールを持つ文化会館が建ち、北向きだった図書館は壊されて文化会館の駐車場になった。そして門前町のシンボル浅間大社と文化会館の間に、待望の図書館ができたのである。明るく、広く蔵書もすごく多い。私は孫が遊びに来ると、紙芝居を二、三巻借りてきて、紙芝居のおばさんに早変わりする。
 私はいま図書館を親戚の家より親しみを持って出入りしている。いつも一冊や二冊借りていないと、落ち着かないくらいだ。この図書館は私をはじめ、およそ図書館に似合わないような人たちが気軽に利用している。買い物かごを下げたおばさん、ゴム草履のおじいさん、腰の曲がったおばあさんなど──。高校時代の同級生にも二人、ここで何十年ぶりで再会した。二人家族が夫婦してこういう利用の仕方なので、税金を払うのも素直に納得できる。
 読書は、好きな時に、好きな相手と対で対話できるようなものだ。しかしそれを楽しむには、頭の畑をいつも耕やしておかねばならない。いつまでもこの図書館と親戚付き合いでありたいものだ。

《終》


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posted by maruzoh at 08:45| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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