俺様とマリア volume.85 IWGP
「ア、アンタ・・・
アンタ、まさか、本物のステゴロの花・・なの?」
振り返ったリンダはまさに顔面蒼白で、頬の辺りを異様に引きつらせている。まるで幽霊にでも出っくわしちまったかのような態だ。そりゃあそうだろう、この女狐の前に立ちはだかって軽口を叩いてんのは、当のリンダがほんの10日ばかり前、色仕掛けの罠にはめて手玉に取った挙句、自身の手で土手っ腹に銃弾をぶち込んだ相手、伝説の喧嘩師と言われたステゴロの花、その人なんだから。
いくら口径が小さい銃だったからって、あの至近距離からの手応えの確かさは、弾いたリンダが一番良く知っているはずだ。しかも腹にめり込んだ銃弾は2発。例え運良く急所を逸れて致命傷に至らずとも、相当深刻な状態であるのに変わりは無い。数週間は病院のベッドで絶対安静でお寝んねさせられるのは請け合いで、散歩はおろか立ち上がることすら夢のまた夢というのが、一般的な外科医の所見であり現実だろう。
ところが花ちゃんときたら、実際にここにこうして立っている。決して幽霊やお化けなんかじゃない。そう、これこそが花ちゃんが伝説と言われる所以さ。これまで傷ついた用心棒や訳あり闘技者なんかの、ヤバイ患者を星の数ほど診てきた新宿の裏ブラックジャク・大藪センセイをして「まさに超人」と言わしめたのは、弾丸を食い止めた腹筋は当然のことながら、この人間離れした回復力を目の当たりにしてからこそだったに違いない。
調子に乗ったGBHのマスター辺りが煽ったんだろう。俺様との新宿御苑大木戸門外での一戦で、行方の知れなかったステゴロの花が復活したって噂は、早耳の新宿の顔役連中なら揃ってもうご存知のようで、観客席が妙にざわついてきやがった。
「E坊、この間は世話になったなぁ。
オイラ、ピンピンしてるから、もう心配いらねえよ。
今日はさ、E坊の晴れ舞台だから大人しく観てようかと思ってたんだけどさ、
最後の最後でオイラたちに因縁のある奴が出てきちまったんで、
黙っていられなくなっちまってさぁ、悪いな邪魔しちまって」
花ちゃんがすごい照れ屋で、女の子が苦手なくせにすごく優しいってのは、友だちなら誰でも知っている。でも、その花ちゃんが黙っていられなくなって、思わずリングに上がっちまうなんて、あの時のリンダの騙し討ちは相当堪えたんだろうな。心の底から泣いてたもんな、花ちゃん。腹に据えかねたっていうオーラが花ちゃんの全身から漲っていて、それを察したリンダはごくりと生唾を飲み込んで1歩後退さった。
「いいぞ花ちゃん、やっちまえ。
俺様もこの女狐には散々煮え湯を飲まされてきたんだ。
こんな輩は女と思っちゃいけねえよ。
いや、こんなのは人間なんかじゃねえ。
この間の仕打ちの借り、倍返しどころか3倍返しにしてやれよ」
ところが当の花ちゃんったら、キョトンとした目つきでけしかけた俺様を見る。
「イ、E坊、勘違いしちゃいけねえな。
オイラ、もうリンダのことなんか恨んじゃいねえよ。
だってそうだろ、男と女の間にゃ、色々あるもんさ。
おいおい、それよりE坊、まさか気づいちゃいないんじゃあるまいな。
ほら、シールドって呼ばれた3人の真ん中、オールバックの奴。
あいつだよ、ほら、確か、ディーン何とかって言ったっけ?
E坊がまだ池袋でトンガっていた頃、
新宿から遊びに行ったオイラと初めて揉めたのが、そいつだよ」
俺様がどうしても思い出せなかった過去が、花ちゃんのさっきの言葉で、ジグソーパズルのピースがはまるみたいに繋がった。
「そうだ、思い出したよ、てめえのこと。
ずっと何処かで会ったと思っちゃいたんだ。
随分と見てくれが変わっちまったんで、気づかなかったよ。
俺様が慣れ親しんでたブクロを出る切欠になったんだから、
てめえとは確かにとんでもねえ因縁だぜ。
おい、ベレー帽にネクタイは何処に置いてきちまったんだ?
池袋西口自警団、
IKEBUKURO WEST GARDIAN PARTY
通称IWGP。
初代団長のディーン安武さんよ」
【To be continued.】
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