やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年08月30日

【エッセイ】解任


【エッセイ】解任 


「これから名前を呼ばれた人は残ってください。他の人はこれで解散とします」 
 呼ばれた十二人の中に、私の名前があった。この仕事で、教えられたり教えたりの友人も呼ばれて思わず顔を見合わせた。私たちは三十年以上も国の統計調査関係の仲間であった。
 昼食をはさんで、三時過ぎまで例年よりテンションの高い研修会だった。解放された人たちがぞろぞろ帰りかけると
「前に集まってください」という。
 集められた人の顔ぶれをみて、もしや──と思った。見覚えのある年配者ばかりだからだ。
「基本的にはこの仕事は一年契約です。例年一月に送付する再契約書を、来年は送りませんので、本年三月をもって解任となります。理由は世相の変化に伴う規則の変更です。基準は年齢と期間です」
 淡々と話す四十代半ばと見えるキャリア組らしき女性は初めて見る顔だった。
 インターネットの普及が情報の世界を変えたのと、これまで自然に行われていた人事交代が急に滞って、高齢化したため、一挙に三分の一の解任になったという。新しい規則だと期間は十年、年齢は六十歳までだ。「もうそろそろ辞めたいよ」と言っていたのに、向こうから言われるのはさすがにショックだった。抜き打ちテストがあったが、結果にはかなり自信がありほっとした。せめてもの意地である。
 帰りの電車の中で友人と
「ちょうど、よかったじゃん」と言うと
「仕事終わっても友だちでいてね。記念に旅行しない?一泊か二泊の……」
 と言い交わしたのに、会話は弾まなかった。そして五月に入ったのにまだ旅行は実現していない。
 いつも十二月初めにある研修会が十一月一日というのも変だとは思った。十一月と十二月で次の人に引継ぎをしておかなくてはということがまず頭を駆け巡った。
 大型店の進出により小さな町の商店街も大きく変わりつつある。バブルの崩壊以来、景気は一向に活気を取り戻さないでいる。ここに、三年でいくつもの中小店が閉店した。
 三月二日、後任者との初顔合わせである。実はこれが一番の重荷になっていた。三十年間にはさまざまの出来事もあった。人間関係も単純ではなかった。私の仕事を引き継ぐのはどんな人だろう。私なりの感慨は山ほどある。自分のポリシーとして仕事の対象とは、つかず離れずに徹した。ここの話は他所へ行っては聴かれても話さないことを心掛けた。半面趣味を通じて、生涯付き合えるかもしれない友人も得た。
 後任と初めて会う日、朝から落ち着かず、かなり早めに家を出た。後任に決まったIさんも思いは同じらしく同時に約束した場所に着いた。話すうちに互いにすぐ打ち解けることができ、私は胸を撫で下ろした。
 最終の仕事となる三月は、Iさんを伴って、調査先の大型店や商店へのお礼と、後任を紹介しながらの仕事になる。
 Iさんは車の運転に自信があるらしく、自分の車を使ってくれと言ってくれたが、時間の待ち合わせロスをなくすため、時間と場所を決めて行動した。息はぴったり合って思ったよりスムースに事は運んだ。一日分を正午に終わり
「外で昼食を済ませて、午後もう一日分頑張っちゃおうか」
 意見は一致して、大型店の中にあるテナントの回転ずしで、お喋りしながら楽しい食事となった。
 その頃には、もう十年来の知己のような気楽さで話すことが出来た。この人になら極意も奥の手も教えてあげたい気になれた。
「やれそうな自信が付いた」
 Iさんも言ってくれた。
 最終回を提出して、何のクレームもないのを確認してから、台帳など調査に必要な重要書類を引き渡す事になった。図書館へ行く用事があったので、引渡し場所は、駐車場も広い近くの喫茶店を指定した。無事受け渡しも済んで
「年下の友人ができたみたいでうれしい」
 私は偽りのない気持ちを言った。一時間くらい話して、またいつか会いましょうと約束した。
「私、図書館へ寄って行くから──」というと、彼女はすばやく立ち上がって、レジを二人分済ませてしまった。
 図書館の階段の途中で
「S田さあん」
 息を弾ませながらIさんが追い駆けてきた。
「長い間、ご苦労さまでした。これからもいろいろ教えてください」
 黄色と赤いバラと露草の花束を差し出した。車のトランクに入れてあったらしい。近くにいた人たちの注目を浴びて、私は一瞬、舞台のカーテンコールに立つ女優さんの気分になった。
 思いがけない花束と記念品のプレゼントに私は胸がいっぱいになり、とっさに感謝の言葉すら出なかった。

《終》



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posted by maruzoh at 08:16| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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