やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年08月26日

【エッセイ】私版 お葬式


【エッセイ】私版 お葬式 


 自分の子どもに結婚話が出る頃になると、若い頃いちもくおいて見上げていた伯父さん、伯母さんにも孫や曽孫ができていて複雑になり伯母・姪という関係も遠い存在となる。
 日曜の朝の突然の電話で伯母が亡くなったという。この伯母は十年前に七十歳で亡くなった父の姉だ。久しぶりに出した喪服は少しきつくて気が引けたが、買い換えることもないと上着は手に持って出掛けた。
 三十年ぐらい前に一度来たことがある伯母の家は山を背負って小川を前にしてデンと居座っていたような気がした。しかし、今ふうに建て替えられサッシの窓にレースのカーテンがのぞいており、洒落た佇まいであった。前の小川はすっかりコンクリートで固められメダカどころか草一本生えていない。このあたりの旧家の葬式らしく五十ぐらいの花輪がずらりと並んでいた。家の中は勿論、外のテントの中の椅子もいっぱいで、その上大勢が立って、回向はもう始まっていた。
「久しぶりじゃん」
 近くに住んでいるのになかなか逢えない妹に肩を叩かれた。
「早かったね。伯母さんいくつだって?」
「八十九だってよ。いいよね、これくらい生きりゃ」
 と、あわてて口をふさいだ。
「そこにいるのは馬見塚の一団じゃない?」
 見れば父の実家の四人娘。久しぶりにここで逢ったとみえて、挨拶する余地もないほど小声で話に夢中だ。
「Kちゃん白髪増えたね、あの人確か三番めよね、年のわりにはSさん若いね」
「あの艶は染めてるね」
 その時
「外の方、私語を慎んでください」
 と、押さえた声でマイクが注意して、一瞬しんとした。
 中では変な抑揚をつけた坊さんの話が延々と続いている。伯母さんの孫が市役所に勤めている関係からか知り合いのSさんが、同僚代表で来たのか香典返しを十個ほど下げて近づいてきた。
「お宅は親戚だっけねぇ、僕は連れが待っているもんで先に失礼するよ」
 仕事中抜け出してきたのだろう。軽く会釈すると、そそくさと帰っていった。また前も後ろもお喋りだらけだ。県会議員のおざなりの弔辞がすんで、小さな曾孫の「天国でおじいちゃんと仲良く暮らしてください」という声にざわめいていた私語もやんだ。老人会の日本の田舎のおじいさん代表のような弔辞は微笑ましかった。八十九には九十のボーイフレンドがいてもいい。ここにきて初めてわがことのように緊張したが最後はしっかり締めて、八十九年の伯母さんの人生がここに今、幕を閉じたことを実感してじんと来るものがあった。
 思えば大きな農家に嫁ぎ舅・姑に仕え、国策に踊らされ律義にも十二人の子を産み育て野良仕事をこなしてきた。伯父さんはこの辺りの本家の長男だし、農業委員だの区長だのと役職も多く陰になり日向になり大所帯のきりもりの苦労は並大抵ではなかったはず。その上で九十歳の夫を送り一年と丁度四日めに後を追ったのは幸せな人生だったというべきだろう。
 やがて葬列を組み出して親族から名前を呼び出した。去年のおじさんの葬儀は旅行中で失礼していた。妹が、私たちは呼ばれなかったよ、というのでテントの中の空いた椅子にどっこいしょと座って子どもの話に興じていた。
 突然、夫の名が呼ばれて続いて妹の夫の名も呼ばれた。二人は弾けるように立ち上がって、余所行きの顔を作ると係の青年に深々と頭を下げて花を一本ずつ受け取ると順に並んだ。バックを左手に持ち換え白い菊の花を斜めに持って小首をかしげて節目がちについてくる妹をみて、人間って案外日常の中に誰でも芝居っけみたいなものを持ってるんだなとおかしくなった。
 葬列はどんどん伸びて際限もない感じだ。
「どうして私だけ呼ばないずらぁ」
 と、おばあさんが私の後ろに割り込んできた。姉妹連れ立ってきた一人が漏れていたらしい。
「大きな葬式にはよくあるだよ、ここに入んなぁ」
 妹らしいおばあさんがなだめている。
 てんやわんやの末、形式だけの大葬列は二十メートルほど進んで待っているバスで火葬場に向った。バスの中は施主が乗っていないので何年ぶりかで逢った他の従姉妹とまるで遠足に来たようにお喋りに花が咲く。子どもの話や、カルチャーセンターやパートの話で、伯母さんのおの字も出てこない。
 でも最後のお別れに棺に花を入れるとき、私の知っていた骨ばった大柄の伯母さんは三分の二ぐらいに縮んで痩せこけて別人のようだった。この人とも確かに血が繋がっているんだなと思うとわっと涙が湧いてきて眼鏡がくもって前が霞んでしまった。(天国でも伯父さんと仲良くね) 素直に手を合わせ心から冥福を祈った。帰り道『お葬式』という映画を思い出した。葬式って人生の縮図のようである。

《終》



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posted by maruzoh at 08:15| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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