やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年08月18日

【エッセイ】ツーショット


【エッセイ】ツーショット 


 最近油断のならないほどおませになってきた五歳と三歳の孫を、連休三日間預かった。「いい子にしてるんだよ」と、用意した昼食もとらずに息子は飛び跳ねるように帰っていった。まだ同級生の半分ぐらいは独身だという年齢なので、たまには二人だけのプランも、大目にみることにした。近くの神社のお祭り、買い物、ままごとの相手、サッカーボールまで蹴った。三日めの夕方両親が連れて帰ると、「孫は来てよし、待ってよし」と思わずつぶやいた。打った覚えもないのに、筋肉痛か横腹が痛い。
 自分たちの連休は、子守りの疲れ休めにと手近な伊豆の松崎に一泊予約してあった。小さなバック一つ持って気楽に出掛けた。
 沼津は風の多い街である。沼津港に着くと空は晴れているのに波浪注意報が出ていて、コバルトアロー号という高速船は、松崎まで行かず、ずっと手前の土肥までだという。折角ここまで出てきたんだから、土肥まで行けば何とかなるだろうと乗り込んだ。
 空は真っ青で、注意報もたいして気にならなかった。連休明けのためか、注意報のためか百五十四人乗りだというのに乗船客は二十人ぐらいしかない。それが皆、窓側にへばりつくように座っている。港内を出ると、やっぱりというように船は揺れだした。青い海に鮫の背びれのような白い三角波が不気味だ。高速のうえ、割に大型なので木の葉のようではないが、ジェットコースターにでも乗っている心地がした。窓も白い波飛沫でおおわれ、一瞬白い世界になったりする。「スリルあるねぇ」などと言っていた私もだんだん無口になってしまった。フワーッと上がった時は前の座席の背にしがみつく、スウーと下がる時は両足が自然に持ち上がった。救命具の付け方の説明がテレビに映ると皆真剣に見入った。
 三十五分を長く感じた。土肥港に上がるとまるで嘘のような夏の陽射しだった。バス停の前に、船内で見かけた中年婦人の二人連れが立っていた。
「まだ四十分もあるんですよ」という。
「私たちも二人ですから、ご一緒しましょうか」
 たった一台しか残っていないタクシーを危機一髪確保した。人のよさそうな初老の運転手も心得たもので
「四人で乗れば、バス代と変わらないよ」と言いながら車を出した。
 東京から来たという学生時代からの友だちだという二人は、日常からの脱出で、開放感を楽しんでいるように見えた。女三人は、後ろの座席に座った。
「船、すごかったですね」
「気分悪くなりませんでした?。私、心の中で念仏唱えてました」。隣に座った丸顔さんが私も仲間に入れてくれたような話し方をした。
「ここからの富士山は最高だよ」。運転手はサービスのつもりか車を止めてくれた。
「ワアー素晴らしい!写真撮ってもいいですかぁ」。細顔さんが少女のようにはしゃぐ。
「待ってるよ」と運転手さん。私たちは富士山のふもとの富士宮から来たと言いそびれて降りた。「撮ってあげますよ」と夫がいうと「お願いしまーす」。丸顔さんと細顔さんは並んでにっこりした。富士山は、不純物を風で吹き払われたように海のうえにすっきり立っていた。元新聞記者の夫が撮った写真は、きっと美しい富士山と幸せをばっちり捕らえていると思う。次は私たちが並んで撮ってもらった。
 サービスのいいタクシー運転手は、NHK朝のドラマ『青春家族』ロケの話しや、女優のいしだあゆみを車に乗せた話をした。楽しく笑っているうちに堂ヶ島へ着いた。本当に一人千四百円にしかつかなかった。
 二人と別れ、私たちは昼食をとって、天窓洞や三四郎島をみてバスで松崎へ出た。そこで重要文化財の「岩科学校」をみて、長八美術館へ行った。左官という実用の技術が、精密な漆喰画として芸術に昇華していた。
「あれ?あのふたり……」
 夫を振り向いている間に人込みに紛れた。
 有名なナマコ壁通りで、あちらから声を掛けられた。「お気をつけて──」「お元気で」と手を振って別れた後も五月の風のようなさわやかさが残った。
 宿はこじんまりした海の近くの温泉旅館。連休明けで、今日の泊りは四組だけ。コリコリするようなサザエやあわびの刺身をたん能した。女客は特に少なく、二十四時間流し放しの湯がすごく贅沢な気がして、寝る前にもう一度入った。のびのび手足を延ばしていると出掛けに誰か入ってきた様子。黙って入ってくるので「今晩は」と声を掛けたが返事がない。場所が場所だけにちょっと身構えたが「ここはいいお湯ですね」とさらに言って見た。しかし無言。見ればフツーの人のようだ。ああ耳が遠いおばあさんかもしれないと慌てて出た。
 翌朝、八時に食堂に降りていくと、窓際で小声で食事をしている中年夫婦の先客がいた。「おはようございます」と声を掛けたが、話をやめてじろりと見ただけ──。シルクっぽいブラウス泣くんじゃないの。昨夜は、耳の悪いおばあさんと思ったわよ!と心の中で悪態をついた。
 人は幸せのオーラを出している人と、不幸のオーラを出している人がいる。いい友人を欲しければ、まず自分がいい友人にならなければ──。
 私たちは、したたるような深緑の中、バスで下田に出て、「踊り子」号で帰った。その頃には筋肉痛もすっかり忘れていた。いま手許にある伊豆旅行の写真の中に、海の向こうに立つ富士をバックに私たちには珍しいツーショットが笑っている。

《終》


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posted by maruzoh at 07:17| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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