やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年07月29日

【エッセイ】一枚の賀状


【エッセイ】一枚の賀状 


 今年の年賀状の中に、心当たりのない賀状が一枚混じっていた。確かに私宛てである。裏を返してみると、型通りの印刷の祝詞に「やっと古巣へ戻ってきました。同窓会に顔を出しました」とだけある。
 私には、小学・中学・高校と同じ学校に通い、五十七歳の今でも、電話し合い、時折美術館やショッピングや小旅行をするTさんという友人がいる。そのTさんの友人のSさんではないかなと思い当たった。Sさんは小学校の先生になった、という風の便りを聞いていた。同総会の名簿から捜し出した三十八年めの突然の賀状である。
 年賀状に書かれている電話番号に電話すると、やはりSさんであった。「分かる、分かる。声変わってない」と頼もしい受け応え。「Tさんと三人で近く逢わない?」いう。「太っちゃたから、お互い赤いバラでも持たなきゃ分かんないかもよ」。
 その手でTさんに電話して、一月下旬に行く予定になっていた「鎌倉の寒牡丹」はSさんの住所に近い美術館に急遽変更した。人間長くやってると思いがけない楽しいこともあるもんだと約束の前日からうきうきした。
 三人の中では一番お嬢さんで、性格も奥さんに治まりそうなTさんが、独身で今もバリバリの現役キャリア・ウーマン。学校を休んで新劇を観に行ったり、全学連のキャンプに参加したりした私が、四人も孫のある普通のおばさんになってしまったのも皮肉だ。
 電話で打ち合わせ通り、Tさんの乗ってくる電車に首尾よく合流した。いつも冷静な彼女もいつになく興奮気味だ。
「Sさんの印象は、高い鼻と、色白で、細っそりして姿勢のよかったことね」
「年齢的にいっても少しは太ったわよね」
 私とTさんは、そろって当時としては長身の百六十センチ、四十八キロだった。細身のお神酒徳利も、今は六十キロ前後の大分座りのいいお神酒徳利になってしまって、体重は大いに気になるところである。
 学校の帰り道にSさんのお宅に寄り道をして、鉄砲百合を抱えるほど頂いて帰った記憶がある。郊外の小さな農家の庭先の、芋倉のそばに百合がたくさん咲いていた。ご両親は敬虔なクリスチャンだった。
 Sさんは約束の十一時、美術館の正面入り口に真正面を向いて立っていた。赤いバラも必要なくすぐ分かった。彼女は昔のままのスリム、化粧気もほとんどなく、女学生に年月が降り積もったように見えた。喉の下に細かい縦じわが多く、そこだけ妙に老けていた。
「まだ先生やってる?」
 先生の雰囲気だ。
「五十歳で辞めたの。夫の転勤が多くなって」
 司法関係の夫の職場の地位が上がってゆく度に転勤も遠方になり、ここに落ち着く前は二年北海道に、その前は三年八丈島にいた。そして昨年故郷のこの地に来て姑と同居し一年になるという。顔色が冴えない。
「昨日は一日、寝ていたの」
「あらっ悪かったわね。そう言ってくれればいいのに」
「ノイローゼ気味よ。目的があればすっと起きられるの」
 こちらはどう理解すればいいのか。Sさんはあの頃から近寄り難いところのある少女だった。
「家はすぐそこだけど、義母さんがいて話しにくいから喫茶店でいい?」
 私たちはその方が気楽でよかった。八十五歳になる義母さんとのこの一年間の暮らしで心身とも疲れ果てたという。
「ボケ始めたの?」
 当然そう思った。
「反対よ!八十五歳なのにスケジュールは一杯で、私はそのお手伝いさん。主人は腹が立つほど親孝行でね。お義母さんは苦労が多かったから、可哀想だから優しくしてやれっていうの」
 そしてSさんは、私の方が可哀想だと付け加えた。
 三人の男の子を抱え三十二歳で未亡人になった義母さんは、中学の国語と家庭科の先生だった。
「今朝もね。コートのボタンが取れそうだっていうの。茶わんを洗ってから行ってみると、しっかりついてるの。やっときました!って義母さんが言うの」
 彼女は大真面目の顔でゼスチャーまでする。
「一軒の家に先生が二人ってのも大変よね」
 無責任の私の冗談にTさんは大笑いしたが本人はにこりともしないので私はぞっとした。おまけに長女は嫁ぎ、残った長男が五月に結婚して別居するという。いよいよ一人の男をめぐる二人の女の戦いは深刻化しそうだ。若くして未亡人になった義母さんにとって、頼れる夫の代わりであり、可愛い長男でもあったのだろう。二人の弟たちはほとんど寄りつかないという。血は温かく、なつかしくもあるが、薄汚いという面も持っている。ご主人も社会的にはどうあれ、家庭内では幼児的だ。
 結局私たち二人は、何十年振りに逢って一時間半、機関銃のような愚痴を聞かされ、不消化のまま帰ってきた。Tさんの貴重な休日は肩すかしに終わったと思う。来月、Tさんとまた逢う時には寒牡丹も盛りを過ぎてしまうだろう。

《終》


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posted by maruzoh at 07:59| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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