やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年07月17日

【エッセイ】疎開U


【エッセイ】疎開U 


 新学期から新しい学校へ通ったので、終戦の年の三月だったと思う。戦争は田舎の街の暮らしにもいよいよ重くのしかかり始め、衣料品の統制で、父は洋品店を閉めざるを得なかった。
 父の実家に近い、今は市内になっている旧上野村へ疎開した。青木坂を、馬力の荷台に山と積まれた家財道具のすき間に座ってガタガタ揺られて行った。母は弟をおんぶして、片手を馬力の上の家具につかまって歩いていた。
 父が苦労して探した疎開先は、通りに面した川の前に建つ杉皮屋根の古い家だった。「水道はどこ?」と家中を捜したが、井戸も水道もなかった。
 次の日から母は五時前に起きた。大きなバケツに白い布を二枚重ねて川の水を漉し、かめにためた。「絶対、生水を飲むんじゃないよ」。母の顔は険しかった。川に棒を流して大きなやかんをつるして一日中冷やしていた。
 学校には朝鮮の兵隊さんが寝泊りし、私たちは大石寺で勉強した。三年生は本堂だったので、男、女二組がしきりもないまま、左右に分かれてそれぞれ別の授業をしていた。
 ある日、今思うとどこかの横流し品なのか古いオート三輪で、冷凍の赤魚を売りにきた。たちまち口コミで、黒山の人だかりとなった。父は金をつかんで飛び出して行った。争うように木箱一つを抱えて帰ってきた。オート三輪はすぐ走り去った。
 母はすぐ家にある一番大きなご飯を炊く釡で入るだけ煮付けにした。暑い夏でもあり、冷蔵庫のない時代。近所から”背負いこ“を二つ借りてきた。残りの魚を二つに分けて三年生になったばかりの長女の私に背負わせた。大きい方を自分が背負い、山を越えて父の実家に行くのだという。もう日は傾けかけていた。道は遠く、溶けかけた魚は気味悪く重かった。
 たどりついてほっとしたのも束の間、米をずしりと
背負わされた。物々交換に来たのだった。母も疲れと、見知らぬ土地の夜道が怖かったのか私の手をぎゅっと握って歩いた。そのころ、子ども用の背負いこがあったのだ。
 学校では桑の皮をむいて持ってくるように言われたが、非農家の子は、持って行く量が少なくて肩身の狭い思いをした。親も見かねて頼みに行ってくれたりした。その時、いいカボチャの種をもらって来た。畑はないので羽目ぞいに並べて蒔いた。
 私も毎日水をやり、ぐんぐん大きく伸びるので竹の棒をたて屋根を這わせた。思いがけず大きなカボチャが三つ四つなった。大喜びし助かったが、食べると大味だった。しかし思いがけないしっぺ返しがあった。収穫から間もなくきた台風で、杉皮屋根はボロボロになっていたのか、家中水浸しになってしまった。
 やがて終戦。国もボロボロになり、その年の十二月には、家を二束三文で売って街へ帰った。
 最近、車でこの辺りだったのかなと徐行して通ってみた。道はすっかり舗装され、水量だけは多く流れも速かった記憶のある川は、ほんのひとまたぎの小川に見えた。あの家はとうになく、別の街を見るようだった。

  (2004年・岳難朝日新聞「だんらん」掲載)

《終》


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posted by maruzoh at 08:01| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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