やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年07月05日

【エッセイ】歩け歩け


【エッセイ】歩け歩け


 昨日の「歩け歩け運動」の洗濯物を干し終わって大きく伸びをした。今回は本当に疲れた。二、三年山歩きをしていないせいか、前回この運動に参加した時は、この程度では軽い軽いと思ったことを思い出す。今日はまだふくらはぎは石のようだし、足の爪はまだ脅えたように縮こまっている。
 例年行われる市の教育委員会主催の「歩け歩け運動」には予想以上の百三十人が参加した。三歳から六十五歳以上までバラエティに富んで市の郊外にできた新設小学校を出発点に富士山旧登山道の起点、村山の浅間さんまでの往復十四キロ。長い長い蛇のようになってゆっくり出発した。日ごろたまに車で通ることはあっても、歩くのは初めての人がほとんどで、郊外に建った新興住宅はモダンな建物展示会のようだ。やがてだんだん多くなった畑に、さやえんどうや、花の咲いてしまったブロッコリーや、もう芽を出したトウモロコシなどに目を見張った。
「そのうち、この下にジャガイモがつくのよ」
若いお母さんが幼児に教えながら歩いている。
 野菜も出尽した頃、休憩があって、ここから長いだらだら坂が始まった。人々の口数はだんだん少なくなった。驚いたことに同じ道を同じ速度で歩きながらどこにあったのか、ぜんまいを片手に持ちきれないほど採って、背中のリュックを下ろして入れている人がいた。
「どこにそんなにあるんですか」
と聞くと、
「向こうから採ってくれ、採ってくれって目に入ってくるんだよ」
と得意そうなおばあさん。身軽に背丈ほどもある土手によじ登ってひょいと列に戻ってくる。まるで山菜採りに来たようだ。なかには何を勘違いしているのか、つば広帽子にじゃらじゃらイヤリングのお嬢さんもいたり、場違いな格好のいい若者もいたり、歩け歩けの会の目的も雑多なようだ。
 村山の浅間さんは遠かった。やっとたどりついて参拝し、歴史をしのぶ千年杉の下でボランティアの方たちの用意してくれたとん汁をフーフーいいながら味わい、お握りを食べた。いつもながらこの味は格別だ。アコーデオンの伴奏で「歩け歩けの歌」を合唱したり記念写真を撮ったりした。
 帰りは別のコース。日本の原点のような鄙(ひな)びた風景の中を、また長くなって、てくてく歩いた。この辺りでは隣近所が遠いので用心のためかどの家でも犬を飼っている。その犬たちが申し合わせたように吠え続ける。
「この辺の犬は、こんなに大勢の人間を見たの今日初めてじゃない」
というと、後ろを歩いていた奥さんが
「興奮して今夜は眠れないよ、この犬らは」
と笑った。犬小屋の屋根の上に乗って吠え続けているのもある。スヌーピーの漫画を連想してほほえましくなる。彼らには一大事件なのだろう。
 まただんだん疲れてきて難民の群れのように黙々と歩く。どこでどうして手に入れたのか杖代わりの棒をもっている人が目に付く。こういう時、私は要領が悪いのか、いつもありつかない。その中に最年長と思われるご夫婦が一本の短い棒を後先に持って仲良く黙々と歩いている。そして時々おじいさんは後ろのおばあさんを振り返るのが何ともほほえましかった。
 現在の日本人の寿命を人生五十年といわれた時代に比べるには0・7を掛ければ妥当だという。今六十三歳の私はまだ四十四歳。働き盛りではないか。一日十里歩いたという江戸地代の旅だと四十キロ歩くことになる。四十四歳の大姐御が、三里や四里の坂道でこれではしょうがないよとみずらに言い聞かせてただただ前を見て歩いた。咲き乱れる農家の庭先のつつじやさつきも、もういいよという感じ。
 朝の天気予報通り空も怪しくなって来た。この上、雨でも落ちてきたらどうしてくれるのよと見上げると、そこが終着地でほっとした。
 車に乗ることが多くなったためか、しばらく山歩きをしなかったせいか、それとも年のせいか、久しぶりの歩け歩けは歩き出す前の不安通り本当に疲れはてた。老いは足からしのび寄るという。二人の息子が結婚し、人生の旅では一つの峠を越えたいま、このままどっこいしょとならないよう〞歩け歩け〞と自分に号令をかける。

《終》


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posted by maruzoh at 07:48| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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