やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
   maruzoh live.jpg

名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年06月27日

【エッセイ】キーボード


【エッセイ】キーボード 


 NHK大河ドラマ「功名が辻」にちなんで静岡県立美術館で開かれている「山内一豊とその妻」展を見てきた。山内一豊は妻のへそくりで名馬を買ったとか、一時、掛川城主だったくらいしか知らなかった。四月十五日から開かれているこの特別展もテレビでよく宣伝していたが、もう混んではいないだろうと、連休明けの天気のいいウィークデーに夫と二人で出掛けた。
 美術館への道は若葉のトンネルだった。点在する彫刻に、五月の風が揺らした個々の樹々のかげがちらちらして眩しかった。ここを歩いただけでも、出てきた甲斐があった。入り口で一人千百円の入場料を払おうとすると七十歳以上は無料とのこと、帰りに買った立派な図録はただになった。
 まず、展示物の多いのに驚いた。戦国時代のエネルギッシュな人間の営みの凄さを感じた。そして、温厚・真面目の代表のように思っていた一豊一族はかなり婆沙羅な人たちだったのかも知れないという気がした。多数の兜のデザインが、大胆、かつ斬新だったからである。一豊は信長・秀吉・家康に仕え、最後は土佐二十四万石の城主となった。子孫も明治まで時代を泳ぎきった。息の長い一族の生き方は時代を読む力や、人間としての誠意や品性を備えていたこと、夫婦の協力も必要だと改めて感じた。
 充実した時間を過ごしたあと、久しぶりに静岡の街をぶらついた。帰りがけ駅近くに出店した大型本屋に立ち寄った。そこで夫は歴史の本を一冊買った。小学唱歌・童謡・抒情歌からフォークまで載った「心のうた」という本で、全曲楽譜が付いているのが気に入った。
 最近図書館で借りて読んだ庄野潤三氏の本の中に、八十歳前後のご夫婦が、毎晩夕食の片付けが済んだあと、「今日は、赤とんぼにしますか」などと言いながら夫がハーモニカを吹き、妻が歌う場面が何回か出てきた。長い人生を淡々と受け入れ、穏やかな日常を楽しんで入る。もし私たちにも、そんな日が訪れたならこの本使えるなと一人で笑ってしまった。
 十日ばかりしたある日、郊外にある大型店へ二人で買い物に行った。道をはさんで向こう側に大型の電気店が開店した。夫はパソコンをやるので写真用のインクや、印刷用紙を買い物ついでによく買っている。その日も、インクがなくなったと立ち寄った。
 広い店内のメイン通路の脇に十台くらいの各種のキーボードがずらっと並んでいた。それが目に入った瞬間、キーボードに呼び止められたような気がして立ち止まった。「キーボード買おうかな、この間買った本を見ながらポツンポツン弾くのも楽しいかもよ」と言ってみると「買いなよ」と夫の思いがけない反応だった。この時とばかり、持ち合わせがあったのでその場で買い求めてしまった。生まれて初めての大きな衝動買いだったかもしれない。
 キーボードなんて玩具みたいなものだと思っていたが、いまのは凄い。カラオケやソング・バンク・ピアノ名曲集などいろいろ付いているのにまず驚いた。早速、楽譜をたどりたどり、右手だけでメロディを追っていくと、結構楽しくやみつきとなった。初めは「春の小川」とか「春が来た」、そして「茶摘み」「夏は来ぬ」とだんだん進んだ。ほとんど毎日、朝晩のお勤めと称して楽しんでいる。夫が「上手くなったじゃん」と誉めてくれると悪い気はしない。
 七十歳になって、未知の世界に出合い、毎日少しずつ上手くなるのに感動した。まだ二か月くらいで、他人に聞かせられるものでは勿論ないが、自分では大満足である。一つ扉が開いた気がした。
うっとおしい雨の日などに「里の秋」「夜明けのうた」などゆっくり弾いていると、なにかしっとりした落ち着いた気分になるのである。
 友人が「沖縄へ行ってきたの」とお土産を持ってきてくれた。ちょっと自慢しちゃおうと無理に二階に上げて弾いてみせると「私もやってる」と言うのでがっかりした。彼女は娘さんが子どものころ弾いていた、あちらは本物のピアノなのだ。「二人なら大人だって初歩からでも大丈夫よ。一緒に習わない?」と持ちかけた。「私は家の人の邪魔にならない時に、右手でメロディだけさぐり弾きしているのが楽しいのよ。半日だって楽しめる」と断られた。 
 私は、すぐ鉢巻締めて、真正面から頑張ってしまう自分の性格を反省した。このまま突き進んだなら、この素晴らしい新しい楽しみはすぐ苦しみになってしまうのは目に見えていた。もっと気軽に生きていい年なんだと自分に言い聞かせた。さあ、今日もこれから楽しもう。

《終》


※本サイトの作品は、にほんブログ村「現代小説」ランキング、人気ブログランキング「現代小説」に参加しています。宜しければ、クリックお願い致します。

 人気ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ



posted by maruzoh at 07:21| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

検索
 

title.gif
maruzohは、アートビリティ作家さんを、応援します!

●ご連絡先● 〒165−0023 東京都中野区江原町2−6−7
社会福祉法人東京コロニー アートビリティ事務局内
TEL 03−5988−7155/FAX 03−3953−9461
●営業時間● 平日 9:00〜17:20 / 土・日・祝日 休業日