やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年06月19日

【エッセイ】統一地方選挙


【エッセイ】統一地方選挙 


 野牛の群れが駆け抜けたような統一地方選挙が終わった。しかし、選挙が終わって二日目の今日も、美容院へ行っても、八百屋の店先でも選挙の話で、野牛の群れの巻き起こした砂煙は納まらない。
 四年前、全国でも珍しい市長派と助役派のリコール合戦があり、その後の出直し選挙と同じ顔ぶれの怨念の対決だからたまらない。町は真っ二つだった。議会も半分に割れ、四年間足の引っ張り合い、中傷のしあいに終始した。市民はもうこういう政治にはうんざりだ。その上、情実の絡みやすいごく身近な市会議員の選挙が重なった。
 私は選挙中の興奮を思い出した。
 朝、洗濯を干しているともうこの区推薦の市会議員候補者Sさんが、性能のよくなったマイクのボリュームを目いっぱい上げて
「元気に遊説に出かけて参りますっ!」
 とあいさつしてくれる。隣の奥さんも手を振るので仕方なく手を振って応える。去年、定年退職して急に老け込んだ近所のご主人は、必勝はちまきを締めこんで車の中から手を振っている。「頼みますよう!」 近頃聞いたことのない張りきった声だ。奥さんは待ってましたとばかり家から飛び出して、先刻まで一緒にお茶を飲んでいた亭主に手を振っている。バッカじゃなかろか。
 地元の高校を出た私の息子には同窓会名簿からデンワの攻勢。毎日投げ込まれるビラはチリ紙交換に出せるほどたまった。
 投票の二日前の晩には顔も忘れたほど珍しい人が訪ねてきた。彼はかつて夫と同じ会社に勤めていたが、会社を辞めて自立し、印刷工場をやっている。高度成長に乗って好調だったときもあるらしいが、目を見張る機械の進歩についてゆくのは大変だという。若い頃、がっちりした体格と粘着質の性格から「牛」という仇名だった彼は、まだ六十にならないと思うのだが、肉の落ちたロバのような風貌になっていた。町で逢っても分からないような変わりぶりである。当時からある政党に属していたが終盤戦になって、接戦の危機感から古参党員の彼までおみこしを上げ、昔の知人を訪ねて歩いているらしい。今年四人の一番末っ子が大学生になって「あと一頑張りしなくちゃ」と五十肩だという右腕をさすった。懐かしさのあまりか、理屈っぽいという印象が強かった彼が気弱な老後の話ばかりしている。選挙の話は一つも出なかったが、「じゃあまだ回るとこあるから…。今回は危ないさや、ひとつ頼むよォ」と立ち上がるとき本音が出た。夫は私に目配せして。少しだけどカンパだ。頑張ってよ」と二千円渡した。
 ホテルのオーナーの候補者が千円でフルコースを食べさせて帰りに握手して頼んだとか、今夜あたり現金が飛び交うという噂がささやかれる中で「金権候補にこういうとこを見せてやりたいもんだ」と夫はいう。
 最後の日、午後三時ごろ洗濯物を取り込みにベランダに立つと風に乗って四方八方からマイクの音が入ってくる。
「○○を是非、男にしてくださいっ!」
「お父さんを勝たせてください。お願いです」
「○○の子を助けてください」
 泣かんばかりの連呼にもう政策も何もない。叫んでいる本人も何かに取り付かれたようにほとんどビョーキという感じがする。夕方の買い物に出て歩いていても、何かにせかされているようで、どの車にも手を振ったり頭を下げたりしてまう。
 帰り道苺が安かったので一箱四パック買って近くの実家に立ち寄った。
「これ自腹だから違反じゃないよ」
 と苺を二パック置いて
「この間デンワで頼んだの…」
「分かってるよ」
 普段政治向きの話はしない義姉さんとも以心伝心。家に帰るとすぐ市内に住む妹にデンワで依頼した投票を念押し。
 いつもと同じ夫と二人で夕食を食べていると当区の推薦候補Sさんが「ただいま、歩いて最後のお願いに参りました」と、すぐそこまで来ている様子。
「顔を知った仲だし、一度くらい出て応援してあげようよ」というと、夫もビールのコップをしぶしぶ置いて立ち上がった。驚いたことに車一台通るにやっとのこの裏通りを候補者を中心に道いっぱいになって運動員全員が歩いてくる。五十人以上はいる。まるで忠臣蔵の討ち入りのようで、はちまきをきりりと締めた一団は殺気さえ感じられる。近所の人も一人残らず沿道に並んで出迎えている。握手攻勢だ。私の前に候補者が来て手を差し伸べた。私は思わず両手で包むように持った途端に胸がいっぱいになり、「頑張ってください!」と目頭は熱くなり声は震えた。自分でも意外だった。日本人は雰囲気に弱いのか――。
 兎に角祭りは終わった。市長も市議も支持した人が当選した。早く平穏な日常に帰ってほしい。近所のご亭主もはちまきを取って、今朝は盆栽に水なんかやっている。

《終》


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posted by maruzoh at 07:56| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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