やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年05月16日

【エッセイ】湖東三山


【エッセイ】湖東三山 


 湖東三山は一度行ってみたいと思っていた所だった。新聞夕刊の紅葉情報に載っていたのがきっかけで、夫がすぐバス会社に電話すると
「はい、大丈夫です」
 とんとん拍子に「湖東三山と永源寺」を一日で周るツアーに参加することになった。おととし同じツアーに申し込んで満席で断られた苦い経験があった。ことしは幸いうまくいった。
 湖東三山は、鈴鹿山脈の西麓と琵琶湖東側の平野を見下ろす山の中腹にある。百済寺、金剛輪寺、西明寺である。このあたりは古代朝鮮半島からの渡来人が多く住み着いたといわれる所である。バスの中から秦庄町という町名が見えた。秦氏は渡来人の有力な一族だったと習った覚えがある。
 当時、高い技術で土地を開拓し、この地でだんだん力を得て、心の拠りどころとして、故郷をしのんで三寺は造られたのだろう。
 この寺の起源は古く、飛鳥時代にさかのぼる。長い間に時代の流れにほんろうされた。大きな力を持ったり、戦国時代(元亀・天正)織田信長の戦火に焼かれ、多くの僧坊を失った。百済寺だけでも僧坊が三百余あり僧兵も多くいたという。現在みても、たしかに山城を連想させるものがある。
 戦火を浴びた時、ある僧の機転で、多くの仏像や宝物が残ったのだとガイドさんの説明があった。
 バスで行くのだから軽く考えていたのは間違いだった。四つの寺とも一種の山岳仏教の流れの中にあり、山の中腹にある。どの寺にも山門の辺りに竹の杖がおいてある。杖なんて──と思っていたが、二つ目の寺から杖を借りた。二番目の金剛輪寺の石段は一番長く足・腰に堪えた。石も不揃いで、磨り減ったり並びがゆがんだりしていて実に歩きにくい。思わず立ち止まって腰を叩いていると、並んで立ち止まった婦人がいた。
「大変な石段の数ですね」
同じバッジをつけている。同じツアーだ。
「昨日、石山寺を歩いてきまして」
「今日もこれじゃハイキングですものね」
 追い越して行く若人たちを見ながらなぐさめあった。前方にわたしの夫と一緒に立ち止まって、遅れてついてこない女房たちを待っていたのが連れ合いだ。
 長い参道を登りきると、一層鮮やかな紅葉に迎えられた。国宝の本堂、それに寄り添うような三重塔がいいバランスで建ち紅葉の中に収まっていた。本堂脇には「血染めの紅葉」といわれる木があって、激しい戦火をかいくぐってきたおどろおどろしい歴史を感じた。
 三重塔を背にして並んでいたご夫妻に
「一緒に撮りましょうか?」とカメラの得意な夫をつつくと「お願いします。二人のは一枚もないから」と自分のカメラを夫に預けた。「じゃ、お宅のも」と言ってくれたのでカメラを渡すと、デジカメになれないのかシャッターが下りない要でもたもたしていて、ちょっと気まずい空気になった。
「こちらで撮らせてください。送りますので」
 奥さんがバッグの中から大きな一眼レフの本格的カメラを取り出した。
 話してみると東京の人で、息子さんがわたし達の町から三十分ぐらいの所にあるF市支社にいたころ何度かF市にきたという。
「いまは本社に帰って研究室にいます」
 自慢の息子らしい。説明するご主人は少し話し方が不自然で何かの病気の後遺症のように思われた。奥さんはカメラが趣味のようだ。
 ご主人を気遣いながらも、女同士とりとめない話しをしながらの帰り道は、下りだからだけでなく、あっという間にバスに帰りついた。ご主人は病後の身体であと何回こられるかと思いながら春は花見、夏の祭り、そして秋の紅葉を楽しんでいるのだという。真面目に人生をがんばって歩いてきた人たちに見えた。その次もきっと二人で──と祈らずにはいられなかった。
 わたしたちは次の日、長浜城歴史博物館を見て、城崎温泉で、温泉と山盛りの松葉カニをたん能して帰ってきた。
 それから三日目、わたしたちのスナップを含めた六枚の写真と手紙、そしてとらやの羊羹を入れた小包が届いた。すっかり忘れていただけに、その分驚き、うれしかった。
 こちらのカメラで撮った写真をプリントし礼状を添えて投函した。
 別れる時、住所をと言われたので、途中で買ったよもぎもちの中に住所を書いた紙を入れて、渡したのだった。写真を送る切手代のつもりだった
 殺伐としたニュースの多い昨今、まだまだ人間はもとよりやさしさとかを信じられるような気がした。そして紅葉の季節が終れば湖東三山は静まりかえって、里を見守っているだろう。

《終》


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posted by maruzoh at 07:01| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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