俺様とマリア volume.80 届いた、神様の声
リング中央ややポスト寄り、俺様はウェアウルフを正面からがっちりと受け止めた。言わずと知れたSSDの体勢だ。会場のどよめきを切り裂くように、リンダのあの神経を逆撫でする笑い声がけたたましく響き渡る。
「キャハハハ、アンタそんなポンコツ技で何しようって言うの?
まさかついさっきのこと忘れちまった訳じゃないでしょうね。
そのSSDはウチの坊やに完っ璧に封じられたってことを。
忘れたって言うんなら早いとこ医者に行った方がいいわよ。
若年性の何とかが手遅れになる前にね」
人間とはおかしなもので、あれだけ癇に障ったリンダの台詞も、これだけポンポンと続け様に言われていると、一種の免疫が出来るのか、よほどのことでない限りあまり腹も立たなくなっちまっている。それどころか「今のはちょっとツッコミが甘かったんじゃねえか?」なんて思っちまうから不思議だ。まあこの女狐の言うことは、英会話のスピードラーニングさながら聞き流す程度が丁度いい。奴の台詞を正面から全て受け止めて笑っていられるなんて芸当は、相当なMか神様、仏様でもない限りまず無理ってもんだ。
「か、神様?
そ、そうだ神様だっ」
降臨。その瞬間俺様は、胸を張り腰に手を当てた神様がやさしく微笑んでくれるのを見た。そう、今この場に神様が現れて、神龍の言っていた「神様の声」を俺様に届けてくれたんだ。
全てが繋がった。マリアに託された神龍からのメッセージを、俺様は100%理解した。しかし、しかしだ。恐るべきは神龍の格闘センスだ。だってそうだろ?たった1度きり俺様のSSDを見ただけで、その防御方法、更にはその対策までも瞬時にシミュレートしてみせるなんて、まさにエディのおっちゃんも顔負けの眼力と知識だぜ。今回に関しちゃ、まったくの脱帽だ。神龍にはとてつもない借りが1つ出来ちまったよ。
「おいおい根無し草のEノイズ。
男同士でいつまで抱き合ってんだよ。
何度やったってSSDなんか通用しないんだから、
さっさとやってさっさと負けちゃいなさいよ。
往生際が悪いしつこい男は愛しのマリア嬢も大嫌いらしいからね。
キャハハハハハハハ・・・」
リンダの罵声も神様の声を聞いた俺様には、カナリアの囀りに聞こえちまうのはちょっと余裕を持ちすぎだろうか。いや、神龍のシミュレーションは完璧だ。後は俺様がそれを実践できるかだけだが、大丈夫。俺様にはリングで大の字になっているウェアウルフの姿まで思い描ける。俺様は間違いなく神様に近づいている。勝負だ。
「よっしゃあ、いくぞぉ」
気合一声。俺様はウェアウルフの道着を掴む左手にぐっと力を入れると、右手を奴の首に巻きつけ思い切り上体を反らせた。1度破ったSSDなど完全に防げると舐めきっているんだろう、踏ん張ろうともしない奴の足は容易く45度から60度、そしてついにはリングに垂直になり、俺様と奴は1本の線と化して静止した。
ここからの一瞬で勝負は決まる。最初のSSDでは、俺様が肩を跳ね上げた瞬間、奴は腰を支点とした後方回転で回避、俺様の背後に舞い降りて反撃に出た。しかし、神様の声を聞いた今、もうそうはさせやしない。
「マリア、待ってろ。
これで決着だぁぁぁぁぁぁっ!」
俺様はウェアウルフを大きく跳ね上げた。
【To be continued.】
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