俺様とマリア volume.79 神の領域の攻防
四足の人狼ウェアウルフがトップスピードのまま、コーナーから僅か1歩半(?)で正面から踊りかかって来た。射るような視線の先、狙いは俺様の眼か、喉笛か、金的か、それとも脚か。
ダッ シャウウウウウウウゥゥゥゥゥ
「な、なにぃっ」
ふざけやがって。驚いたことにウェアウルフは、低くかがんだ俺様の真上、しかも射程範囲のギリギリ圏外の頭上を狙いすまして超高速で飛び越えていきやがった。左旋回のピボットターンで即座に振り返った俺様は、次の一手を決めかねていた。
(このまま待つか、それとも追走して奴のターン時に攻撃するか)
そして俺様は後者を瞬時に打ち消した。
(いや、あのターンは四足歩行だからこそ出来る鋭角ターンだ。
追走した後の俺様の直線的な一撃目が万一かわされた場合、
俺様は勢い余って無残にコーナーに正面から激突しかねない。
下手すりゃ一気にコーナーに押し込まれちまって、
あの超高速ラッシュでジ・エンドだぜ。
ここは当初の戦術通り、カウンター狙いしかねえ)
俺様のこの判断は正しかった。コーナー前に音もなく着地した奴は、それまでの8の字ターンではなく、更にコーナーに向けてジャンプをすると空中で捻りを加えて反転。コーナーポスト上で後ろ足で踏ん張るという、浮力を与えられた自由形スイマーさながらのターンを、まるで水の無い地下6階のリングでやってのけた。
(今度こそ来る!)
コーナーで目いっぱい力を溜め込んで反動を効かした両足踏切は、まさにロケットスタート。ウェアウルフに弾丸の様な凄まじい勢いを与えた。恐らく人並みはずれた格闘センスを持つ本部席の神龍でさえ、この瞬間、奴の体を見失っているんじゃないだろうか。
しかしだ。エディのおっちゃんとの特訓で極限まで動体視力を研ぎ澄ました俺様には、この超高速の弾丸ダッシュの中で、奴が右手から繰り出しつつある四本貫手、所謂地獄突きがはっきりと見える。
(あの突進から繰り出す貫手には更に加速度がかかる。
そいつを正面からブロックなんてした日にゃ、腕中穴だらけだぜ。
ここはひとつ直線的な力の方向、ベクトルを変えてやるしかねえだろ)
シャァァァッ スフッ
俺様は超高速でバックステップしながらウェアウルフが喉元に向けて放った右の地獄突きを、肘の外側から左手をあてがう様にして軌道をずらしてやる。が、敵もさるもの引っ掻くもの。そんなことはお見通しとばかりに右手を巻き返すようにして、今度はフック気味に俺様の眼球を狙って3本指で引き裂きにかかる。
ビシュッ フッ シャァッ ガガッ
バックステップから一転。俺様は敢えて間を詰めてウェアウルフの距離を潰すと、3本指をやり過ごす。ならばと奴は、左からのボディアッパーで鳩尾周辺に拳を突き立てんとする。しかしここでも俺様は瞬時に反応して、奴の拳を右肘でブロックした。ここまでの攻防が、コンマ4秒弱。
しかもこれは全てウェアウルフの超高速ダッシュの最中(さなか)に紡がれた攻防だ。俺様と奴にしか体感できない、驚くべき時間の流れと距離感。人間を超越した、まさに神の領域と言っても過言ではない攻防だ。
ところが、しかし、俺様の眼の前にはもっと驚くべき事態が、まさに偶然の産物として出現していた。今の攻防でウェアウルフは、フックを防御された右手を上げながら、ボディを狙う為に頭を下げた状態でいる。しかも俺様が奴との距離を詰めたものだからほぼ密着した状態となっている。と言うことは、だ。このまま俺様が奴の右脇の下に頭を突っ込んで、右手で奴の頭を絡め取りさえすれば。そう、これはまるっきり俺様の新必殺技「SSD」を掛けてくれと言わんばかりの体勢だって訳なんだ。
しかし、SSDはさっきウェアウルフの驚異的な切り返しの前に完全に封じられちまっている。
(ひょっとしたらこれは、リンダ一流の罠かも知れねえ。
神様の声はまだ微かにしか聞こえてねえし。
くそぉ、どうすりゃいいんだ・・・)
ガシィィィッ
迷った挙句、俺様が選択したのは、奴を受け止めてもう1度SSDで勝負を掛けるという道だった。
【To be continued.】
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