やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
   maruzoh live.jpg

名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年04月18日

【エッセイ】思いつき


【エッセイ】思いつき 


 二月の連休に長男の所でお雛祭りをするので都合はどうかという。お雛様を買ってくださった嫁のご両親の手前も行かねばなるまいと相談しているいるところへ東京の、夫の妹さんから電話。昨年九十二歳で見送った舅の一周忌に出てきてもらえるかという根回しらしい。義妹には身内が少ないので呼ばれれば万障繰り合わせて行くつもりでいた。東京の長男の所へ行く話をすると「じゃあその時家に泊ってお線香あげてくれる。そうすると私の立場が助かるのよ」という。私たちも日帰りはきついので息子の所かホテルにでも泊るつもりだったので、渡りに舟と話はその場で決まった。
 夫は五歳で父を、十歳で母を亡くした。富山出身の父親は絵描きを志し上京したものの挫折、結局理容師になって同業者の娘と結婚、二人は東京で理髪店を開業した。父が病気で亡くなった後、母は郷里の埼玉で開業し、女手一つでがんばったが病に倒れた。父の兄が亡き弟の嫁の病気見舞いに黒部スイカを担いで富山からはるばる出てきた日が、その嫁の葬式当日だったという。
 大人の今になれば無理ない話なのだが、子供心にはどうしても許せなかった母の実家の扱いに、初めて会った伯父から「一緒に富山へ行くか?」といわれて、すぐ「うん」と伯父に付いていったという。幼かった妹は子どものない夫婦の養女になった。五十年前にはこんな話はたいして珍しいことではなかった。
 近所で「仏の清仂さん」といわれた伯父さんでなければ、終戦をはさんだ食糧難の時期、四人の子どもがある上に引き取ってくれなかったろう。伯母さんや兄弟もみないい人たちに恵まれたんだなと思われるのは、夫のアダ名が「極楽トンボ」だったのでも分かる。今は多弁だが若い頃は無口で特に人の悪口を決して言わない人だった。他人の中で生きる子どもなりの智恵だったのかも知れない。社会人になって東京へ出たのはうろ覚えのある妹に会うためだったという。養家の前を行きつ戻りつした末、名乗り出たが青臭い青年と他所の子として育っている中学生の少女では会ったとてどうにもなるものでもない。お互い遠慮しながら付かず離れず文通などする変な間柄だったという。
 やがて二人ともそれぞれの配偶者を得た。後ろ楯のない結婚は厳しい。私たちも若く自分の生活で手一杯。義妹は両親と都内に嫁いだ姉さんが四人もいて五番目に生まれた長男に嫁いだ。立場上いろいろしてあげたいことは多くても出来ることには限度があり、心ならずも形通りの付き合いになっていた。
 三十年という年月が多少のゆとりと年相応のしたたかさを身につけさせた。その日は時期外れの台風を思わせる大雨だった。久しぶりお雛様の前で話も弾んで宿になる義妹の家に着いたのは夜になってしまった。「今日予定していた主人の釣りの会がこの雨で流れて明日になったの。久し振りに来てくれたのに主人は明日早くてすみません」という。都会にしては広い家に舅を送り、ここも二人暮らしになっていた。若い頃ハンサムで弱々しそうに見えた義妹の夫も年を重ねて中小企業ながら会社役員の肩書きがつくと貫禄がついた。中年四人が鍋を囲んだ。話は盛り上がったが冠婚葬祭でなく顔を合わせることは少なく、もう一つ他人行儀がとれない気がした。
 翌朝、目覚めると義妹の主人はもう出掛けた後だった。「今日は帰るだけだから何か展覧会でも観ていこうか」と夫がいう。「私も今日は一人だから途中まで送っていくわ」と義妹。「ねえ、熱海の美術館へ三人で行かない。私たちは帰り道だし、貴女はプレゼントの小旅行にして」。私の提案で急遽、遠足へ行く小学生のようにわきたった。
 新幹線のホームでは私はわくわくして三人席を捜した。窓際に夫、次に義妹を無理やり座らせると、私はにやっと思わず顔がほころんでしまった。「晴れてよかったねぇ」。もうそれは先刻から三回もいっている。こういう時、男の方が照れてしまうようだ。どんな話をするのか聴き耳をたてたが取り止めのないことばかりだった。
 義妹は海の見える初めての大きな美術館に大感激していた。タイムトンネルのような大エスカレーターで展示会場についた頃にはすっかり年月の垣根は取り払われ、昔から一緒に暮らしていたような気がした。抹茶をいただいたり、照れる二人を並べて写真を撮ったり、童心に返って半日を楽しみ味わった。
 夕方、東京へ帰る義妹に帰りの新幹線の切符と美術館の図録を渡して別れた。私たちは反対の静岡行きに座ると夫は「今日は有り難う」と他人行儀に言った。私は思いつきが意外に喜んでもらえた興奮とサービス過剰で疲れ果ててしまった。「考えてみると、こんなこと初めてだったなぁ」と、しみじみ夫が言った。

《終》


※本サイトの作品は、にほんブログ村「現代小説」ランキング、人気ブログランキング「現代小説」に参加しています。宜しければ、クリックお願い致します。

 人気ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ



posted by maruzoh at 08:01| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

検索
 

title.gif
maruzohは、アートビリティ作家さんを、応援します!

●ご連絡先● 〒165−0023 東京都中野区江原町2−6−7
社会福祉法人東京コロニー アートビリティ事務局内
TEL 03−5988−7155/FAX 03−3953−9461
●営業時間● 平日 9:00〜17:20 / 土・日・祝日 休業日