やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年03月29日

【エッセイ】還暦の旅


【エッセイ】還暦の旅 


 四月二十七日、今日は私の六十回めの誕生日である。還暦ということになる。嘘みたい。
 四年前、夫が還暦を迎えた時、長男と次男の嫁が計画して伊豆一泊の初めての一族旅行をした。当時四歳を頭に四人の孫たちの子守役は私だった。今回は息子や嫁たちも四年分、大人になったのか、フルムーンの五日の旅をプレゼントしてくれた。私たち夫婦は四月十六日から二十日まで思いがけない旅を楽しんだ。
 第一日めは博多に泊まり、二日めは大宰府を中心に観光して夕方、西鹿児島駅に着いた。三日目の朝、私たちは駅南の市内・桜島定期観光バス発着所前の列の中にいた。
 目の前にいるグループは、見た目は日本人とほとんど変わらないが雰囲気というか、肌合いが違うなと感じた。中国人?成人学校で中国語を習った経験のある私は解放感も手伝って近づいてみた。早口の会話は中国語ではないらしい。
 博多でもそう思ったが、九州のガイドさんは、健康的で好感が持てる。最初の下車地は西南の役最後の戦場となった 城山の展望台だった。坂道をぞろぞろ上りながら前を行くカップルが何組か手をつないでいるのに驚いた。さっきのグループの人たちである。今の若い人たちでは珍しくもないが、四十、五十代では珍しい。しかもあまりに自然なので、ほほえましくさえある。
 展望台からの景色は素晴らしかった。煙こそ吐いていなかったが桜島を真正面に、海を隔てて島津七十七万石の城下町が一望できる。ガイドさんにシャッターを押してもらって私たちも珍しく並んで写真を撮った。例のグループは代わる代わるペアで写しまくる。その時男性は必ず女性の肩に手を回している。それは一種の礼儀のようにさえ見える。
 山を下りながらの西南の役最後の総攻撃での場面説明は圧巻だった。聞くも語るも一丸となって西郷先生の最期に胸をあつくした。まるで芝居の中に入ってしまったように、明治という時代のとば口を走り抜けたヒーローたちといっときを共にした気持ちになった。
 島津久光の別邸だった磯庭園には、もう大輪の牡丹が咲いていた。例の一団はこの花壇で歓声をあげた。「立てば芍薬、座れば牡丹の、ぼたんだよね……」という老婦人の声が聞こえた。
 桜島へ渡るフェリーの中で、夫が「ブラジルかららしいよ」と小耳に挟んで来た。ポルトガル語なんだと納得。顔は同じでも生活習慣の違いも納得した。
 桜島はご機嫌が悪いのか今日は煙を吐いていない。ガイドさんの説明で、この地方は何でも詰めて言う癖があり、灰のことも「へ」というのだそうだ。観光客は「へ」が出ていると喜ぶがここに住んでいる人は大変なのだと笑わせた。〞花は霧島、煙草は国分……≠ニ『鹿児島おはら節』を歌ってくれたが西郷さんの説明ほどには上手くなかった。
 天候によっては登れないという湯の平展望所にも運よく車が上れた。江戸・大正・昭和と近世だけでも三度も大噴火している。流れて固まった溶岩にも、それぞれの特色がある。心配された空も晴れて、白い雲は南国を感じさせた。突然、水蒸気か煙か分からないが白い煙が出た。私たちは思わず歓声をあげて見上げた。
 その時どこからかおはら節のメロディーが流れてきた。耳を澄ますと確かに風に乗って流れてくる。音の方へ歩み寄ると、展望台の陰で初老の男性が口に手を当てて吹いている様子。歌ってみれば陽気な歌もどこか哀愁を帯びて聞こえた。「草笛ですよ」と恥ずかしそうに振り返った。「ブラジルの方ですか」「はい六十年振りに帰りました。鹿児島の出身です」と、日に焼けた顔をほころばせた。私が六十。終戦・学校・結婚・子育て六十年はやはり長い。この人の上にもいろいろのことがあったであろう。ブラジルからいま労働者が大勢来ている。この人たちは成功者の部類に違いない。「二十日から北海道を旅行して帰ります」といった。あの草笛も万感をこめた草笛だったんだ。
 最後の下車地を見終わりバスに戻ろうとすると「ペトロ!ペトロ!」と白髪の婦人の声。「はい!」と答えたのは先刻の男の人だった。「べんじょに行ってくるから」とトイレに急いだ。ペトロさんはガイドさんに少し待ってくれるように頼んでいる。女の人が便所と言うのも、大黒柱のような人がよぼよぼの老人に「はい!」と返事したのも私には驚きだった。日本はめまぐるしく変わるのに、古い日本がそっくり移民生活の中で純粋培養されていた。日本では死語になった親孝行もまだ生きていた。いい旅を続けいい晩年を楽しんでくださいといえばよかったと、あっけなく別れてしまったのが悔まれた。
 私たちはその後、和歌山城をみて、紀伊勝浦に泊まり那智の滝や青岸渡寺を訪ね、名古屋へ出て帰った。私も今日を区切りに、新たな気持ちで人生で一番いいという夕暮れを楽しみたい。

《終》



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posted by maruzoh at 07:13| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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