やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年03月17日

【エッセイ】早春のSL


【エッセイ】早春のSL 


 日差しが春めいて、空の明るさが、どこか知らない所への旅心を誘った。
「いい天気だし、どうせ折角の日曜日を、一日コタツでテレビになってしまうから──」とSLで有名な大井川鉄道への小さな旅は、朝八時になってから、あっという間に決まった。
 明治維新で移住した旧幕臣を中心に、明治二年に始まった牧の原開拓事業の成果は、点在する農家のほかは茶園で埋めつくされる光景に象徴されている。さすが日本一の川根茶の産地だと感心させられた。
 大井川を縫うようにして、列車は川上に進んで行く。川霧が美味しい茶を作るというのも頷ける。梅や桃が花盛りで彩りを添える。
 何という駅だったかすれ違いの電車を待つため八分ほど停車するというアナウンスがあった。近くに登山口でもあるのか、大きなリュックを背負った山男たちがぞろぞろホームに上がってきた。
「山本せんせい──」。横掛けの隣の席に座っていた高校生が、歌うように呼びながら、弾けるように立ち上がった。「オー、部活かぁ──」。女の子は出口に片手でつかまりながら、乗り出すように話している。「今度、部員が五人になっちゃうんです。男子はゼロ!」。観光シーズンもオフで、山間の老人が目立つ乗客は聞くともなしに若やいだ会話を聞いている。白のソックスもかわいい。会話の山男は舞台装置を手伝う美術の先生らしい。女の子は今度三年生になる新部長さんかな。
「ねえ、『雪国』の冒頭にこんな場面なかった?」「このくらいの女の子にはどこか華があるねぇ」。女の子を持たなかった夫は、眩しそうに目で追っている。
 終点の千頭に着くと、お目当てのSLの予約を取って駅前の食堂に入った。さすが茶処、食堂のお茶まで美味しい。
 発車の時間まで町の中を歩き、SL資料館に立ち寄る。ここには七輌のSLがあるそうで、勢ぞろいした写真は壮観だ。
「今日走るのはC56という一九三六年、日本製です」。最後の罐焚きだったという温厚な説明係は、自分の子どもの話でもするようにやさしい顔をした。「何しろ年ですから、喘ぎ喘ぎですよ」。夫は振り返って「あんたと同じ年だよ」にはまいった。
 発車の汽笛は感動的だった。客車も、うれしくなる当時のものだ。タイムトンネルを抜けたように結婚前のことが思い出された。口角泡を飛ばして喋りあいながら通った研究会が回を重ねるうちに結婚に至り、今は、子どもが当時の私の年を越えている。「忍耐」「根性」、額に入れて置きたいような言葉も身に付いた。子どものころ、汽車の運転士にあこがれたという彼は、年も忘れてはしゃぎまくっている。
 鉄橋を渡るとき、水の少ない広い河原に落ちた汽車の影は、シンボルの煙を吐いて心に焼きついた。湿気を含んだような、柔らかくて、暖かくて、力強い汽笛は、それぞれの胸を、それぞれに満たした。

《おわり》



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posted by maruzoh at 09:48| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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