やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年03月01日

【エッセイ】人生七十いまではざらなり


【エッセイ】人生七十いまではざらなり 


 中国の唐代の詩人杜甫は「人生七十古来稀なり」と詩中の句に書いた。日本でも古稀は長寿の節目の祝いとされてきたが、「人生七十いまではざらなり」となった。
 私の楽しみの一つ、観劇で知り合ったAさんは六十過ぎてから油絵を始めた十歳年上の友人である。
 観劇の当日、「残念だけど今回は行けなくなったの」と電話があった。七十八歳になるご主人が、オートバイで長野へツーリングに行ってこけたとのこと。たいしたことはないと思うが、年が年だから一応入院するという。一昔前には考えられないことである。
 こんなときに限って中央の前から四番目のいい席である。全席指定だ。幕間の十五分の休憩時間になると、バタバタと後ろから駆け込んできた婦人がいた。
「ここもうこないよね。いいかしら?」
「どうぞ、こんないい席の日にこの方こられなくてもったいないと思っていたの」
「わたしきょうは後ろから三番目でね、空いている席をオペラグラスで探してたんだ。もう知り合いや友だちはみんな死んじゃうし、一人できたから」
 そういいながら隣の席に座った。
「お友だちが亡くなったんですか?」
「もうすぐわたしも八十一だからね。残るのも寂しいもんだよ」
 彼女はケロリとしている。どう見ても六十代半ばにしか見えなかった。話が弾んで幕間はまたたく間に終わった。
 それから一か月ぐらい経った日のことである。私は街を歩いていていい色のセーターをショーウインドで見つけた。店に入ると、奥の方から話し声が聞こえてきた。
「脇を少し出して、袖は三センチ詰めてね。明後日着るんだから、明日の夕方までには仕上げといてよ」といいながら出てきた婦人に見覚えがあった。もしやと思ったが婦人も気が付いて「ああ、あの時の……」と思い出してくれた。
 明るい昼間の日の光の中で見ても、どうしても八十歳には見えない。顔色は艶があり、皺もない。第一おしゃれである。だから声も大きくて張りがある。
「昼間見ても、負けそう」
 私が笑うと「わたしゃ手相も見るよ。右手を出してみな」と私の手を取った。
「あんたぁ、男性的だね。晩年いい手相だ」
 嬉しいことをいってくれる。
「じゃ元気でね。またどっかで会って、話ししようよ」
 婦人は忙しそうに街角を曲がって去って行った。私の大きな手を握れば男っぽいと思うだろうし、手相を見るというのも眉唾物だが、私は悪くない気分になって「ふふふ」と思わず忍び笑いをしてしまった。
 ブッダは意のままにならないものは、生・老・病・死だという。後から来る者に年を取るのは悪いことばかりじゃないな、と思わせるのが人生の先輩からの、最大のプレゼントかもしれない。

《終》


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posted by maruzoh at 08:04| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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