やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年02月23日

【エッセイ】祭りの会所


【エッセイ】祭りの会所


 秋も深まり、太鼓の音が風に乗って聞こえてくると、だんだん憂鬱になってきた。それというのも、夫が定年を機に町内会長を押し付けられてしまったからである。
 市からの配り物、研修旅行という名の物見遊山の世話、お地蔵さんの団子作り、敬老会の接待と、次から次へと仕事はあり、そのうえ結局女の仕事が多い。そしてその一番の山場がお祭りなのである。私はお祭りが余り好きではない。晴れの日がいやなのだ。
 間もなく紫の羽織と、三波春夫が舞台で着るような袴がきた。夫が着る副祭典長の衣装だ。この町では十六もの町内が山車を出して浅間大社に集まり、婦人や子供の手踊りとともに町内を練り歩く。昔は三日だったが、この町内はいまは二日間となった。
 驚いたのは、夫があれほど嫌がっていたのに、予行練習までして、まんざらでもなく、きんきら羽織、袴を着て行列の先頭を歩いたことである。私にも会所接待という、二日間出ずっぱりの役目が決まっていた。
 前日から泊りがけできている次男一家に
「あるものどれでも食べていいから、自分たちで勝手に食べてって──」
 と、孫たちに小遣いを渡して八時半に揃って家を出た。
 祭りの会所は前年も経験した七十五歳にはとても見えないEさんと、新顔の一町内会長夫人のIさんと二町内の私の三人。会所は区の公会堂で、正面に浅間大神の掛軸、その前に大鯛。両脇に海の幸・山の幸、その外側はのしのついた酒の紙箱がずらりと取り囲んでいる。
 まず神前での出陣式。賑やかに手〆で締めるころには、何か雰囲気に圧倒され始めた。
 会所の客は千客万来。まず他の町内の渉外係が、酒を下げてあいさつに来る。その口上が大真面目で芝居がかっている。
返す言葉もまるで時代劇。私たちは湯のみに冷酒を注いで勧める。右往左往していた私も、Eさんを見習って
「祝酒ですから、ぐっと空けてください」
 などと、いつの間にか接待係になってしまう。
 老人会の年寄りが例年の楽しみらしく集まってだらだら酒を飲む。おばあさんも結構いける。午後になると、見知らぬ酔っ払いも上がり込んでくる。私とTさんが顔を見合わせていると、Eさんが冷えたおでんなんか持って行って食べさせ、いつの間にか外へ連れ出してしまった。
「さすが、年の功!」
 と言うと、うふふと肩をすくめて笑った。 
 太鼓や笛やかね鉦の音が一段と大きくなった。宮参りに行った山車が浅間大社から帰ってきたらしい。「せぇの」とか「それっ!」とか荒々しい声がとびかい、ただ事でない様子。窓から覗くと、上り坂になった曲がり角を、山車が曲がり切れないらしい。近くで見るとしょうき鐘馗さんをいただいた山車は、思ったより大きく、その上で五人の若者が、笛や太鼓を叩いているのだ。半纏に紺の股引きの若い衆が、長い丸太を持って木製の山車の下に丸太を入れて方向を変えようと必死だ。驚いたのは近くに住む、いつも仏頂面のおにいさんが、顔を真っ赤にして大声で、指揮をとっていたことだ。別人のようだ。笛や太鼓はますます激しく、にいさんの「引けぇ!」の号令で女・子供の「そぉれ」の声とともにどうやら動き出した。私もつられて「そぉれ」と声を出して感動した。
「市長さんが見えた」
 Eさんの声に振り向くと広報紙で見なれた市長さんを先頭にぞろぞろ会所に入ってきた。三人はおおわらわで酒の接待。結構話も弾んで帰りに記念写真を撮ってもらった。祭りのお陰で市長さんも、大工のおじさんも同列で笑いこけた。私も酒も飲まずにちょっと、酔い心地だ。入れ歯を忘れてきたおじさんの、お握りをおかゆにしてもらいたいなどという話にさえ「いいよ」と大らかに受ける自分が不思議。
 突然、畳屋のおじいさんが
「アンタのお父さん在所は馬見塚ずら」
 という。若い自立したばかりの頃、ズボンを作りに行って、父に自分の実家を紹介してもらって、広い田舎家の畳の総入れ替えをさせてもらい忘れられないという。十六年も前に亡くなった父の意外な一面を知ってうれしかった。子供のころ私の家は仕立屋を兼ねた洋品屋だった。
 昨年まで現役で踊っていたというこぎれいなおばあさんは、人気の的だった。若いころは女優だったという。旅回りの芸人さと耳打ちした人もいたが、どこかに華がある。とても来年八十には見えない。今は一人暮らしで、ブローチ作りなど手芸が好きだという。自作だという胸のブローチをほめると
「今日はいろいろ話して楽しかった。形見だと思って、持ってて」と、はずして下さった。
 町内会長は任期二年である。何だか来年のお祭りが楽しみになってきた。

《終》


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posted by maruzoh at 08:23| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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