やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年01月24日

【エッセイ】もずが枯れ木で


【エッセイ】もずが枯れ木で 


 バタンというドアの閉まる音を残して、タクシーが走り去ると、相乗りしてきた六人が一様にほっとした笑顔で降り立った。
「いい結婚式だった」「無形文化財のお神楽がでるとは思わなかったわね」。
 今日の結婚式は、披露宴が終わるのが四時近かったので、遠方から来た弟と私たち夫婦はもう一晩妹の家に泊まって明日の朝早く、発つことになっていた。
 二階で着替えをしていると「早くしろよ!」と弟の声。もうみんなはキッチンの大テーブルに座って待っていた。弟は「とりあえず乾杯だ!」とすっかり主導権を握ってしまっている。この厚かましさにはわけがある。私の弟と広島の義弟は学生時代からの親友で、義弟は夏休みに帰省する弟について私の実家によく遊びに来た。それが縁で妹と義弟は結ばれたので弟はいまでも恩を売っているのである。
 今日の花嫁の両親である妹夫婦、その息子で結婚した娘の年子の兄、私たち夫婦と仕切り屋の弟は、改めて乾杯した。お酒に弱いので顔に出るのを恐れて、乾杯のシャンパンしか飲んでいない私は、会場の熱気と広島の真夏のような暑さに、冷えたビールを一気に飲み干してしまった。
「それにしても、遠方から駆けつけた伯父さんにスピーチか、せめて歌ぐらい歌わせてもよかろうに──」。弟はスピーチを考えてきていたらしい。夫も密かに思っていたようだ。それが二人の職場と友人中心の人前結婚で肩の凝らない楽しいショウを見ているようで、親族はみなお客様だった。
「そうだ。カラオケに行こか」と弟が言い出したが、みんなお酒が入っているし、近くにはないという。「よし!ワワワ・ワーを受け持ってくれ」と弟は立ち上がり『長崎は今日も雨だった』の替え歌を歌い出した。こちらもかなりいい気分なので、弟の振る手に合わせて「ワワワ・ワー」と大声でみんなで歌った。「広島は今日は晴れだった─」と結んで大拍手。妹の夫もいい気分で『昴』を歌うと「今度はお前だ!」妹の長男を指名した。私はドキリとした。一つ年下なのに活発で社交的な妹と正反対で人前で歌うタイプには見えなかったからである。こんなことでもないと会うこともなかった甥だから、無理強いしていいものか分からない。甥はビールを一口飲んで立ち上がると「中島みゆきを歌います」と歌い出した。
 情感をこめて、かなり自分も楽しんでいるように歌い終えた。私は知らない曲だったが、楽しんで聞きほれた。一番驚いたのは妹で、この子が人前で堂々と歌ったのを初めて聞いたと涙さえ浮かべて大拍手した。
 甥はその後、はやりの歌を二曲歌った。よしっ、私は乾杯の一杯で気が大きくなり、普通の歌ではかなわないと思って、四十代の半ば少しかじった中国語で『海は故郷』を歌ってみんなを煙にまいた。夫はいつもの『琵琶湖周航の歌』を歌った。妹の夫が、若いころ習ったというロシア語で対抗し『モスクワ郊外の夕べ』を歌うと「お前も何か歌えよ」と弟は妹に強いる。「私は駄目よ」。結婚するまで保母をしていたから毎日歌っていたろうに、すっかり箱入り奥さんになってしまっている。「もずが枯れ木で歌ったら?。昔よく一緒に歌ったじゃない」と私が言うと「ああ、そうね」。妹は意外と透きとおった声でゆったりと歌い出した。すぐ私も唱和した。その中に夫が大きな声で加わると、義弟も弟も──。期せずして『もずが枯れ木で』の大合唱になってしまった。すると昔の青年歌集の歌が出るわ出るわ。『灯』『カチューシャ』『流亡の曲』『ステンカラージン』『仕事の歌』『若者よ』……。近所では何ごとかと思ったかもしれない。甥だけが仲間に入れず、初めて見る両親の大合唱に目を丸くして聞いていた。
 昭和三十年頃から十年ぐらいだろうか、若者の間にうたごえ運動というのがあった。都会の歌声喫茶から始まって、地方へ拡散して行った。ロシア民謡やメッセージソングなどいろいろだった。弟たちが帰ってくるたび、土産に持ってきたのが表紙が「灯」とか「カチューシャ」という掌に入ってしまうほどの小さな歌集だった。私たちはそれから東京の匂いをかぎとり、よれよれになるまで歌ったものだ。
 人は遺伝と環境と時代によって作られるというから、時代を共有するものはかなり分かりあえるものを持つ。何年振りかで逢ったのに『もずが枯れ木で』で一挙に融合して、大声出して歌い、喋り、笑い、大いにストレス解消にも役立った。
 最後はフォークの『神田川』で締めた。あの中の歌詞のように、若かったあの頃何も怖くなかった。時代の成長期と、自分たちの青春が重なった私たちの世代は、地球はわれわれが動かしているような、動かせるような気がしていた。
 時代の大きな曲がり角にたっているいま、なつかしくあの頃を思いながら、最後の広島の夜を楽しんだ。 

《終》


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posted by maruzoh at 08:33| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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