やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2013年01月14日

【エッセイ】ツーショット 2


【エッセイ】ツーショット 2 


 秋の初めに、格安な温泉一泊旅行があった。紅葉も楽しめるかなと気軽に予約しておいた。行く先は群馬県の水上温泉。一日バスに揺られて夕方、見上げるようなホテルに着いた。
「たった一晩だから……」
 四階でエレベーターを降りた夫と私は部屋割りの紙を片手に長い廊下の一四五号室を捜して歩いた。下に六名様と書いてある。相部屋である。
 部屋は広くて外の眺めも悪くない。
「ここだ、ここだ!」
大きな声と共に、初老の元気そうな夫婦が入ってきた。気さくそうな人でよかった。七十歳で現役大工のSさん夫妻。
「お父さんここよ!」
 通り過ぎた夫を呼び戻して入ってきたのは一番若くて物静かなKさん夫妻。Sさんは
「これも何かの縁ずら、まず一杯やるかぁ」
 もう荷物の中から紙パックの日本酒を出した。
「あれ? アンタ篠原さん?」
 私は突然旧姓で呼ばれた。
「昔、富士見町に住んでたら? 俺、近くの豊さん馬力の二男だよ」
 街の風景はもちろん、町名さえも変わってしまったその町に私は小学校二年まで住んでいた。
「隣が竜さんて大工でさー」
 私より十歳年上だというSさんは、その竜さんの弟子で子どもの私を見ていたのだろうか。
「向かいはブリキ屋で、その隣が洋服屋で──」
 あー私は古い映画を見るように家並みや角の床屋や、今はない銭湯を思い出した。そして一本上の通りにいつも馬が繋いである家があったっけ──。話は尽きなかったが、六時から宴会と決まっているので、その前に男性組と女性組に分かれて風呂に入ることにした。
 湯量の豊かな広いいい風呂だった。三人ならまだ明るくても平気だと露天風呂にも入った。渓流を覗き込むような形で手足を伸ばすと、一日バスに揺られた疲れが指先から煙のように抜けていくような気がした。秋の陽はあっという間に視界に紗をかけたように落ちて、目の前の山から赤っぽい月が出た。いま知り合ったばかりの六十五歳のSさん、六十歳の私、五十三歳のKさんは女同士の気楽さで、他愛ない話に笑い興じた。いつも二人暮らしをしている身には、気の合いそうな六人部屋はかえって興味がわいた。
 このホテルも高度成長期の旅行ブームに増築したのか入りくんで分かりにくい。宴会場は同じ四階でも一度二階に降りて、フロントの前を通って別のエレベーターで行く別棟の四階にある。型通りの宴会・カラオケのあと福引があって、なんと私が三等のバス・ウォッチ(風呂場用の時計)が当たるというハプニングがあった。
 一人一本ずつお銚子が付いたがそれ以上は別会計で自分で注文する。お酒に弱いKさんは一本、夫はビール一本と酒一本なのに七十歳のSさんは五本も注文した。はらはらする奥さんを尻目に手酌でぐいぐい。人にも注いで回るなかなかの発展家だ。
 宴会も終わり部屋に帰るのだがみなほろ酔いのうえ、ホテルの構造が分かりにくいので自然に出口で待ち合わせる形となった。Sさんの奥さんだけがまだ来ない。とうとう会場には誰もいなくなって、フロントの前にソファーがあるからそこで待っているかも──と、二階に降りたがそこにもいない。売店かも知れないと男たち三人を待たせて私とKさんとで広い売店を一周したが見当たらない。
 みんなで部屋に戻ってもなかなか現れなかった。Sさんは立ったり座ったりして落ち着かない。「じき帰ってきますよ」「分かりにくいんだよなぁ」などと言ってみるが聞く耳持たぬ様子。とうとうSさんは「見に行ってくる」と出て行ってしまった。「私も……」と立ったが「俺の女房だから……」というのでやめた。
 五分も経ったろうか、気まずく四人でお茶を飲んでいると真っ赤な顔をしたSさんの奥さんが土産の紙袋を持ってドドドッと入ってきた。「廊下で殴られた!」といいながら手に持っていた眼鏡をかけたが、メタルがゆがんで鼻にずり落ちてしまう。そこへSさんが
「あーやだやだ! 他人に迷惑かけて平気で買い物してやがる。もうお前とは一生旅行はしないぞ!」
 部屋の空気がカチンと固まってしまった。奥さんは泣き笑いしながら謝り、あとはみんなで笑い飛ばしてSさんも収まった。十分かしないうちに、先刻の豊さん馬力のなつかしくて、面白くて、悲しい話に聞き入った。
 次の日、朝湯に連れ立っていった。Sさんの奥さんは「あんなことはじめて──」とくどくど言い訳するので私とKさんは「愛している証拠よ」「その年にしちゃすごい絆ね」とからかった。
 二日めの初めの見学場所、水澤観音で仲よく手を合わせているSさん夫妻を見つけた。夫がカメラを向けると、照れて離れたので私は横から奥さんを両手で押しつけた。いまにも吹き出しそうな顔でぴったりくっついたSさん夫妻のツーショットがここにある。焼き増しして送っておいた。

《終》


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posted by maruzoh at 14:31| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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