俺様とマリア volume.76 SSD敗れたり
リングの中央で俺様とウェアウルフが縦に一直線になった姿は、一見すると超滞空式のブレンバスターに見える。が、しかし、抱え上げられた体の向きがやや違う。お互いの体がツームストンパイルドライバーのように向き合っているのだ。俺様は準決勝で元ゴクに向けて放った会心のSSDの感触を全身で反芻し、勝利を確信した。
(イケるっ!)
ガッ
俺様は左肩を突き上げるようにしてウェアフルフの体を一旦浮かすと、ウェアウルフの頭部をホールドしていた左手を解き、自らも軽くジャンプ。自由落下を始めんとするウェアウルフの胴の辺りを両腕で抱え込んだ。
「な、なんだと・・・」
俺様の腕はウェアウルフを抱え込んだ、はずだった。ところがだ、なぜだ、ウェアウルフが落下してこない。抱え込んだはずの両腕がスカっと空を切った。
ドスンッ
目標物をなくした俺様は抱きしめようとした女に逃げられた男さながら、しかも開脚したままのまるで間抜けな格好でリングに尻餅をついちまった。全く以って情けないザマだ。
(しかし、どうして?
ウェアウルフはどこへ?
何がどうなったんだ?)
現在の状況が全く理解できずに混乱する俺様の頭の中、もう1人の俺様が「冷静になれ、冷静になれ」と言い聞かせている。
ザシャッ
その一瞬後、俺様の背後にウェアウルフが着地する音が聞こえた。
(なぜ奴が背後に?)
そ、そうか、そうに違いない。恐らくだが、奴はあの俺様が肩を跳ね上げた一瞬に合わせて、全身のバネを使って後方回転したんだ。それ以外に今の状況は説明できない。しかし、言うは易しだ。世界広しと言えど、誰があの一瞬に合わせてそんな芸当が出来るってんだ。俺様と奴は相対していた訳だから、奴は空中で上体を反らす遠心力のみで、腰を支点として後方回転をしたとしか考えられないんだぜ。ニュートンもびっくり、とても人間業とは思えねえ。狼人間の面目躍如と言うところか。
バキャッ!
「ぐはっ」
感心してる場合じゃなかった、奴は背後にいたんだ。後頭部にサッカーボールキックを喰らった俺様は、追撃を避けるために前転してウェアウルフと向き直った。俺様の背後でリンダの癇に障る笑い声がした。
「ははは、どうだい、根無し草。
新必殺技のはずのSSDとやらも、やっぱり坊やには通用しなかったね。
エディのじじいとの苦労も水の泡、早々にポンコツ同然の元必殺技って訳だ。
これでもうアンタに打つ手はなくなった。
詫びを入れるんなら、ふふふふ、今のうちだよ。
それができないんならマリア嬢の前でなぶり殺しだ」
俺様はウェアウルフに視線を向けたまま、背中でリンダに応えた。
「冗談じゃねえよ。
誰が死んだっててめえなんかに頭を下げるかってんだ。
よく見とけ、これからが本当の闘いなんだよ」
いや、これは決して強がりやハッタリなんかじゃねえ。実は俺様には神龍の言っていた「神様の声」ってのが、ほんの少しだけ、ささやき程度だけど、聞こえた気がしたんだ。そう、本当の闘いはこれからだ。
【To be continued.】
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