やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
   maruzoh live.jpg

名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年12月27日

【エッセイ】赤いちゃんちゃんこ


【エッセイ】赤いちゃんちゃんこ


 ひと時代前に、「書きますわよ夫人」という言葉があった。しかし、それは戦後強くなったものは女と靴下のたぐいのもので、男性は薄ら笑いを浮かべながらみていたし、女性の方にも変な気負いがあったような気がする。
 この町に文を書くのを楽しむおばさんの会があると聞いて物見高く覗いてみた。そしてそのまま居ついてしまった。年齢も環境もまるでまちまちなのに、妙に波長が合うというのか居心地がよかったからである。
 会は月二回。郊外の公民館で朝十時から始まる。作品のある人がその日の人数分だけ下の事務室でコピーしてきて、くじ引きで順番を決め、本人が読み、みんなで批評する。これを共同助言といっている。
 前回、「しらみ騒動」という題でカットに行った美容院から孫の頭にしらみがいたという電話があって大騒動をした話があった。平均年齢六十五歳ぐらいの会員たちは、いつの間にか批評はそっちのけで戦中戦後の蚤・しらみの話に盛り上がってしまった。こういう話題はどうもねという人や、私も日常レベルで書くとおぞましい気がするから、ユーモアたっぷりに笑い飛ばすか、科学的見地から押していった方がいいような気がした。小一時間しらみ退治に花を咲かせるともうお昼。
 お医者さんの奥さんも、私のように年金生活者の女房もみんな持参のおにぎり.「昨夜のトンカツが残った」「こんにゃくが美味しく煮えた」と、おかずもあれこれ。
 一時過ぎにやっと午後の部に移り、四時まで延々と続く。出席率はバイトを持っている私を除いてかなりいい。この日を楽しみに他の日を生きているようにさえみえる。
 前回の例会の前日、隣町に住む二男が夫婦で出席の会に出るので午後から二人の孫を預かってほしいという。こちらもたまに二日ぐらい孫と付き合うのもいいかと引き受けた。昼食になったので「すみません、今日はこれで……」と中座すると、追いかけてきたTさんに赤いベストを頂いた。咄嗟のこともありろくにお礼も言わずに持って帰って来てしまったのが悔やまれた。
 帰りついてよく見ると、少し押さえた赤いウール地に、しっかりした赤地に細かい黒い格子の裏地がついている。早速着てみると軽くて暖かくて着心地もいい。
「こんにちはぁ」それぞれピンクとブルーのリュックを背負った二人の孫が元気に入ってきた。三年生になってちょっと気の許せなくなった孫娘が「おばあちゃん似合うじゃん」というのでそのまま着続けてしまった。
 二、三日して会員のひとりにそっと聞いてみると「あの人は楽しみで作っては他人に上げてるの。本人は功徳だといって喜んでるんだから有難く頂いとけばいいのよ」「私なんか知り合って日も浅いのに」「じつは私も頂いて重宝してる」という。奇特な人もいるものである。
 いつかそのTさんがお姉さんの亡くなった時のことを書いたことがあった。夜中に訃報を受けて、遠く離れて暮らすもどかしさに眠られぬまま墨をすって写経をしたという。明日駈けつける時、それを持って行って棺の中に入れてあげたそうだ。極楽浄土へ旅立つ後ろ姿がみえるようだったという。「まるで平安時代ですね」というと「私、輪廻転生を半分は信じてる」という。戦争をはさんで七年の年の差にはかなり大きなものがあると思った。
 作家の井上ひさしさんが『死ぬのがこわくなくなる薬』というエッセイの中で「自分の作品は、死ぬのがこわくて仕方のない男の心のおののきから生まれた……作者というものは自分のための薬を調合する人種のようである」と書いてあったのを思い出した。私たちは勿論作家ではないし、プロを目指しているわけでもないが、やはり自分なりの「死ぬのがこわくなくなる薬」を調合しているのだと思う。そしてそれは自分の分は自分でしか出来るのだとも思う。
 いまだかつて死ななかった人はいない。人生なんて死ぬまでのひまつぶしさなどと気楽そうに笑い飛ばしている人も、ちょっと格好つけてその人なりの薬を密かに作っているのだろう。そして、いつの間にか調合でき、知らぬ間に飲んでしまったらしめたものである。
 Tさんの功徳のためにも有難くいただくことにした。しかし前に紐のついたちゃんちゃんこはまだちょっと抵抗がある。
紐を切ってしまおうかと思ったが折角付けてくれたものだから折り曲げて裏に縫いつけた。そこに日替わりでブローチをつけて愛用している。

《終》


※本サイトの作品は、にほんブログ村「現代小説」ランキング、人気ブログランキング「現代小説」に参加しています。宜しければ、クリックお願い致します。

 人気ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ


posted by maruzoh at 21:49| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

検索
 

title.gif
maruzohは、アートビリティ作家さんを、応援します!

●ご連絡先● 〒165−0023 東京都中野区江原町2−6−7
社会福祉法人東京コロニー アートビリティ事務局内
TEL 03−5988−7155/FAX 03−3953−9461
●営業時間● 平日 9:00〜17:20 / 土・日・祝日 休業日