やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年12月15日

【エッセイ】雪の光景


【エッセイ】雪の光景


 雪の少ない富士宮は、今年は二回も雪が降った。だが次の日にはもう跡形もなく消えてしまった。この町に生まれ育った私は雪景色には憧れに似た思い入れを持ち続けている。
 初めの雪の降った翌朝、窓を開けて黒々とした湿った土を見てがっかりした。雪国の人には言えない話である。
「どこまで行ったら、まだ残っているかしら」
「身延の先かもな、下部まで行けば確実だ」
 こんな夫婦の会話の二時間後には、もう特急「富士川号」の乗客となっていた。
 電車は北に向かって走っているのになかなか雪景色は見えてこない。いい天気だ。この明るい光が山や畑の雪をどんどん溶かしている音が聞こえてくるような気がする。
 山梨県に入った辺りから屋根の雪おろしをする人が見えてきた。やはり甲斐の山々はその山襞の陰影を濃くして立体的な風景を見せてくれる。
 下部温泉駅に降り立つと、一面銀世界で雪国を思わせ、私は子どものようにわくわくした。夫が以前から訪ねたいといっていた「湯之奥金山資料館」は雪の中でも開館していて、学芸員がゴム長を履いて入り口の雪掻きをしていた。山沿いに建つ資料館の辺りは三〇センチ以上の積雪だ。気軽に軽装できてしまった私は、すぐ雪の持つ二面性をいやというほど思い知らされた。
 やっとたどり着いた立派な館内には私たちを含めて五人しかいない。
「暖房費も出ないねぇ」
 と申しわけないような気がして、図録や土産物を買ったりした。夫はこんな日なので学芸員とゆっくり話せたと満足し、私も少々手こずったが憧れの白い別世界をたん能した。
 帰りの「富士川号」はかなり混んでいた。通路側にかろうじて席を見つけ、ほっとして外の景色を眺めていた。山側の窓側に初老の夫婦が座っておりヤッケに登山靴の山行きのスタイルだった。網棚には大きなリュックが二つ並んでいて、この年で冬山をやってきたのかと驚いた。
「おい、前に渡した三万円いくら残ってる?」
 手帳に何か書き込みながらご主人がいう。
「あるわけないでしょう。バスがストップでタクシー代が一万二千五百円だもの、一万三千円でお釣りはいいですよ……聞いていなかったの?」奥さんの声は尖っていた。
「ああ、そうだった」
「私の方から、かなりで出てるのよ」
 どちらかが耳が遠いのか、かなり大きな声で話すので、私にも筒抜けだ。
「無いわけじゃないんだから建て直すことなかったのよ」
「いいじゃないかもう……。俺たちもいずれは入るんだから」
「あんな遠い山の中へなんて、東京だって、静岡だって来ちゃくれませんよ」
 会話から嫁に行った娘と離れて住む息子がいるらしい。故郷へ墓を建てたのだ。
「来てくれなくて結構。死んじゃえば何もわからないんだから」
 窓の外の雪はもうすっかり消えている。早春の透き通る明るい日差しが眩しい。
「二、三日ずれてたらねぇ、今日はこんなにいい天気になって──」。奥さんはまたも愚痴る。
「こっちが集めといて、雪だからやめるわけにもいかんだろう。みんな忙しいとこ都合つけて来るんだから」
 山梨県か長野県の最寄りの駅からタクシーで一万円以上とはどんな所だろうと想像した。長男だけど都会へ出たご主人が親の墓を建てなおし、近くに住む兄弟を集めて披露し、一席設けた日が、ちょうど大雪になったということらしい。お二人には雪は白い悪魔だったようだ。
 墓の話には少なからず興味を持った。夫の友人が正月に珍しく帰省した長男と奥さんと三人で、新年早々分譲墓地めぐりをしてしまった話を聞いたばかりだったからである。私たちは、そんな歳になったのである。
 また独身を通してしまった私の友人から両親と自分の墓をどうしようかと相談されたこともあった。
「人間って行くとこが分かってると安心して、これからも生きられるんじゃない」と、私は建てるのを勧めていた。しかし、供養する人もないのに大金を掛ける必要があるのか、自信がなくなった。
 自分が死んだ後、他人がどう思おうと他人の自由だ。死後の世界があると思う人にはあるし、無いと思う人には無い。墓というのは死後に残された自分のイメージに過ぎない。それらに縛られることはないと思った。
 電車は富士宮駅に着いた。空は真っ青だ。まだ口論し続けている二人を見ながらホームに立った。

《終》


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posted by maruzoh at 13:22| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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