やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年12月05日

【エッセイ】日だまり


【エッセイ】日だまり 


 心当たりのない大きなダンボール箱を前に私はもう一度宛名を確かめた。確かに私宛てである。恐る恐る開けてみると、なんと古い和服が二十数枚も出てきたのである。
 遅い夕食中に電話があった。
「明日頃着くと思うけど、あなた宛ての荷物送ったの。実は、それ杉山の前の奥さんの着物なの。処分に困ったらあなたの手で捨てて──。私の手でゴミとしてはどうしても捨てられないのよ」
 と涙声になった。
「分かった、安心して!」
 電話の主は長い友人の時子さんである。
 時子さんは最初の結婚で女の子を一人置いて離婚、今はまったく没交渉である。二度めは奥さんに病死された杉山さんと熱い恋愛結婚。成人した杉山さんの二人の息子さんたちから反対されたが、二人だけで暮らした十七年間は時子さんの人生で一番充実した日々だったようだ。その頃私はヨガ教室で時子さんと知り合った。
 杉山さんは七十半ばに発病した。二年近い闘病生活は当然のように七十過ぎた時子さんがひとりで看取った。穏やかに送った直後、公正証書付きの遺言書を持って、次男夫婦が訪れた。夫が諍(いさか)いを避けて自分から書いたのか──。落ち込んでいるときに寝耳の水の時子さんは人間というものが信じられなくなったという。
 私も何度か聞かされていたがいいアドバイスもできず、気の合う京都に住む姉さんが唯一の相談相手だったようだ。何度めかに京都へ行った時のことである。姉さんの家と昔からの知り合いで若い頃は、材木屋をやっていた村田さんと偶然のように仕組まれた見合いをさせられた。何となくフィーリングがあって、南禅寺の近くで湯豆腐のお昼を食べた。そのまま姫路の近くまで帰る村田さんを京都駅まで送ることになった。駅に着くと
「どうです。軽く食事を」
 と村田さんが言い出した。時子さんは迷ったが
「じゃ今度は私が持つってことで……」
 と小さな和風食堂には入った。店の窓からちょうど昇りかけた月が見えた。
「お天気下り坂ですね。お月さまがにじんだように見える」
「ほんとだ、きれいだねぇ。お月さんをしみじみ見るの久しぶりだ」
「どうしてですか」
「夜の空に月があるなんてこと忘れていたんだね」
 と笑った。東寺の五重塔の上にかかったレモン色の月を二人でしばらく眺めていたそうだ。
 次の日、姉さん夫婦と遅い朝食をしていると、昨日の村田さんから電話があり、「姫路から乗り換えて直です。遊びに出て着ませんか」という。いくらなんでも昨日の今日で決心がつかないでいると「昨日はとても楽しかったですよ」。少年のような口調で言う。「私も久しぶりお喋りしてストレス解消しました」と乗ってしまったのがきっかけで村田さんはその日も京都まで、出て来たのだった。
 話はとんとん拍子。どちらも係累なし、村田さんには小さな家もあり、当面生活の不安もない。その経過は逐一、私に届いた。
 大阪に住む私の妹の三人娘の一番下がとうとう嫁に行くことになり久しぶり夫婦で大阪まで出掛けることになった。
「三人とも嫁に出しちゃうのねぇ」というと「いいのよ、さあてこれからが私の人生!と思ってる」という。いまリフォーム教室に行っているというので渡りに舟と杉山さんの奥さんの着物は妹が頂くことになった。
 姪の結婚式は滞りなく済んで、次の日、妹夫婦が京都見物に連れてゆくという。京都もいいが私はこの際、新婚の時子さんが気になってならない。思い切って電話してみると「そんな近くまで来てるならぜひ会いたい」と大喜びしてくれた。
 私は知らない所の一人旅に自信がなく、結局その日は男組は京都見物、妹と私は時子さんを訪ねることになった。
 電話で聞いてメモした紙を片手に降りた駅は、小ざっぱりした小さな駅だった。改札口を出ると、一度お目にかかったことのある村田さんが人なつっこい笑顔で待っていてくれた。「台所を改造してて、職人さんが入ってるもんで空けられなくて、時子はご馳走作ってます」。二つ目の信号を曲がるともう田園風景で、その中にこじんまりしたスイートホームはあった。八十一歳と七十三歳二人の終の棲家には十分だった。
 人見知りしない飛び込みの妹まで加えての時子さんの手料理の昼食は本当に美味しく、楽しく私は肩の荷を下ろしたようにほっとした。
 帰り、駅まで送ってくれた二人の足取りは年のわりにはしっかりしていたが、これが永遠に続くものではないことは分かっている。その時はいつか来る?それでもいいじゃないか、人生の終わりにちかい時、日だまりのようなこんな暖かい日々があれば、ないよりずっといいと思いつつ、別れの手を振った。

《終》


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posted by maruzoh at 08:11| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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