やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年11月29日

【エッセイ】青春、花盛り


【エッセイ】青春、花盛り 


 昨年八月末で定年を迎えて、約八か月、生活の急変にも、いつの間にか馴れてしまった。その間に旅行も八回した。パックの北海道旅行あり、優雅なフルムーン旅行あり。初めての旅行というだけで、三日ぐらい前からわくわくしていたのに、この頃特にときめかなくなってしまった。人間というのは、よきにつけ、悪しきにつけ直に慣れてしまうものらしい。
 夫が青春切符≠ニいうのを買ってきた。これは普通列車に限り一日何回乗り降りしてもいいという切符が五枚つづりで一万千三百円というものである。これで京都旅行をしようという。二人で往復に使っても一枚余ることになる。今まで京都は7回いっているがいつも新幹線だった。これを使えば旅費は約五分の一になる。お金はないが時間はたっぷりという学生の休暇旅行にはぴったりである。それで青春か──と納得する。私たちもいま第二の人生の入り口、お金はまあまあだが、時間はたっぷり青春の条件にかなう。
 朝七時六分、西富士宮駅を大きめのショルダーバック一つずつを肩に、ジャンパーにスニーカーという出で立ちで出発した。九時十八分、浜松で一分の待ち合わせで、新快速米原行きに飛び乗り無事腰掛けて列車が動き出したときは、「やったァ」。スリル満点だった。首都圏を走る新快速は、車体も新しく古い新幹線の列車よりきれいでゆったり、小さな駅を飛ばして早さも急行なみ。青春切符はこれにも乗れる。米原で二十二分待ち、その間に駅ビルで、セルフサービスのコーヒー、ハンガーセットで四百七十円の青春ランチ。十二時五十一分の姫路行き新快速に乗って京都へ。十三時四十四分、身も心も軽く無事京都駅に降り立った。長い旅は新幹線と決めていた既成観念は吹き飛んだ。
 約六時間の車窓はまさに桜の花を追い駆けるたびだった。在来線の駅はどこも明治以来の歴史がある。ほとんどの駅に手入れのいい桜の木が植えられていた。中には息を呑む見事な大木もあった。流れる景色も桜づくしだった。山の中腹に霞のような山桜あり、川の両岸に並木になって咲き競うソメイヨシノの桜堤──。ウィークデーだというのに、桜の下で宴会をやっているグループもいた。日本の国花が桜だというのも頷ける。
 宿は足の便利な祇園の真ん中にあるシティホテル。ツインで一万五千円也。チェックインにはまだ早いので、いつでも観られると思って見損なっていた東・西本願寺を見ることにした。折悪しく雨が降り出した。雨の京都もいいものだった。芽を吹きだしたイチョウの萌黄色と、桜のピンクのコントラストは平安の都を思わせる色だ。世界的にも珍しいという木造建築の大きさは目を瞠らせた。しかもここは、堂内に自由に参詣できることでも親しめる。思えばわが家は浄土真宗であり、ここはその総本山であった。作家の山崎正和氏が著書の中で、浄土真宗的感受性というのがあるという。妙に寛容で、妙に深情けで、すべての論理を曖昧にして、情と恨みを七、三に混ぜた感受性だと書いてあったのを思い出した。幼くして両親を失った夫が、葬式に来た富山の伯父にその場で引き取られて、無事成人できたのも、そのお陰もあるのかも知れない。富山は全国でも最も浄土真宗の盛んな土地柄であり、伯父は熱心な門徒だった。私は小銭入れをまさぐって出てきた五十円玉を百円玉に換えて賽銭箱に投げ入れ深々と頭を垂れた。
 次の日は、ホテルの横から出るバスで、天橋立に行った。三時間半掛けての旅だったが、桜は日本海に近づくにつれて、つぼみが固いのが分かった。乗り降りする人の耳にやさしい京言葉や土地の話題を風景とともに楽しんだ。展望台のある傘松まで老人や子どもの長い列のケーブルカーを避けて青春切符らしくリフトに乗った。名物の股除きもしっかり体験して、さかさまの写真まで撮った。
 帰りは特急の列車で京都に着いた。ホテルの近くの八坂神社に着いたのが夕方の六時半。境内は満開の桜の下、花見の宴が繰り広げられ、盛り上がってここだけ別世界をつくっていた。奇しくも東山に大きな赤っぽい、滲んだような月が上がりかけていた。夫は並んだ出店で熱燗のワンカップを二本買い、ぶら下げて花を楽しみながら明かりの入ったぼんぼりの並んでいる間を歩いた。「月はおぼろに東山──」祇園小唄が口をついで出てしまった。
 ホテルに帰って天橋立で買ってきた野焼きの竹輪を肴に一杯やりながらテレビをつけると全国中継ですぐ近くの清水寺の花見を映し出していた。
 三日目、静かな智積院の庭を楽しみ、国立京都博物館の「倭国、邪馬台国と大和王権」という重厚な展覧会をゆっくり見て、昼過ぎ帰途についた。夫婦二人の二泊三日の旅費その他しめて八万円弱。こんな旅もあるのです。

《終》


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posted by maruzoh at 08:15| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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