やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年11月27日

【エッセイ】災 難


【エッセイ】災 難 


 災難はどこにあるか分からない。一番安全だと思っていた家の中で怪我をした。
 月のうち十日近い、県の統計調査のアルバイトをしていているだけの専業主婦の私だが、年末年始は、毎年もう一つの調査があって、例年気ぜわしい正月を送る。松も取れ、二つの調査もやっと仕上がって、無事提出してほっとしたのが十四日。今年、東京に住む長男一家は、子供たちが風邪を引いてこられなかった。そこで十五・十六・十七日の連休に、こちらから行くことになっていた。面倒がりの夫が、新幹線の指定席を買いに行ってくれた。
 鼻歌まじりに夕食の後片付けの皿を洗っていたときのことである。ぶつけた覚えもないのにひびが入っていたのだろうか、洋皿がバリン!と割れて、右手の甲の親指のつけ根に鋭い痛みとともに、白い皿に鮮血が散った。悲鳴で飛んできた夫も血を見てただオロオロ。消毒と血止めの黄色い粉の薬をまぶすほどかけて、手で押さえた。二人暮らしになって久しく、薬箱には風邪薬や胃腸の薬ばかり。夫は地震避難用のリュックを持ち出して、消毒ガーゼと油紙を捜し出した。いつ入れたか忘れてしまったほど古い油紙は一枚の板のように張り付いて使い物にならない。このぶんでは消毒ガーゼの効果も怪しいものだ。夫は近くの外科医に電話してくれたが、もう出ない。かといって救急車を呼ぶというのも……。明日は?、切符は?頭の中は混乱した。
 出血は、思いのほか早く止まり、予定通り出発できた。「昨夜はどうなるかと思ったよ」。ほっとして並んで座席に腰を下ろした。昨夜の出来事は悪夢だったように思えた。音もなく列車が動き出したとたん、網棚の重い土産がどしん!と右手の上に落ちてきた。真っ白な包帯に、赤い点ができたと思うとまるでバラの花が開くように蕾ほどの大きさで止まった。おかげで、息子のマンションに着くまで、私は自分の右手だけを大事に抱え、夫は重い荷物を二つもち、「振り分けにして担ぎたいよ」とぼやきながら歩いた。
 夕方、嫁が夕食の仕度に取り掛かると、私は三歳の孫を連れて外に出た。包帯を買うため薬屋を捜した。やっと見つけると祭日で休みだった。帰って話すと、嫁はすぐ立派な救急箱を出してきてくれた。「新所帯だからないんじゃないかと思って……」と感心すると「結婚式場で、記念品にいただいたんです」と笑った。
 次の日は雨だったが、池袋の水族館に行き、帰りに買い物や食事をして楽しい一日を過ごした。お子様ランチの旗を、大切にポケットに入れて持ってきた孫が可愛いくて「また、いこうね」と抱き上げたとたん、あっ!また出血。「おばあちゃん、手が破れたの?」と真剣に顔をのぞき込まれ苦笑した。
 二泊して三日の夕方、無事帰宅した。もう手も大丈夫だと思われた。
 その夜、旅の疲れで深寝入りしているところを、電話で起こされた。何ごとかと、飛び起きると、近くに住む親戚の玄関先に車が飛び込んだ、すぐ来てほしいとのこと。驚いてパジャマの上にズボンとジャンパーを着て夫とともに駈けつけた。国道まで出ると、すごい音でもしたのか、夜中だというのに人垣ができているではないか。ピカピカの白い大型車が、玄関先に突っ込んでいて前半分ぐちゃぐちゃ。フロントガラスもひびが入って、十九歳の運転者は、救急車で運ばれた後だった。酒の臭いがしたという言う人もいた。
 家の中はガラスの破片で足の踏み場もない。驚いたことに国道は夜中でも車が通るので、近所の人が道路の掃除を始めた。親戚の私が見ているわけにもいかず、私も夢中で加わった。若いおまわりさんが「ご協力、有り難うございます」と敬礼してくれた。右手を見るとまたまた包帯は、バラの花が開きかけた形に血がにじんでいた。よくよくついてない傷だ。
 今日で十日め。昨日買い物の帰り、いつの間にか、傷のある右手で荷物を持っていた。痛みは危険を知らせる信号だから、自然に右手を使って気づかないのは、治ったということなのだ。自由に歩いて、どこも痛くも苦しくもないことは、本当に幸せなことなのだ。右利きの私は、この小さな傷が、突然私の生活を大きく変えていたことに気が付いた。買い物は、手を加えなくていい軽いもので間に合わせ、同じ予算で食事は急に貧しくなった。顔は左手で猫のように洗い、ローションとクリームだけ。包帯にファンデーションや口紅が付くのを恐れて、素っぴんで通した。初めてそれで街へ出るときは少し抵抗を感じた。風呂も最後に入り、湯舟で左手で洗うだけ、石けんを使わないと、何となくさっぱりしない。そして他人のことよりまず自分をかばってしまう。
 医者に行きそびれ、傷の割りに、痕は大きく残るかも知れない。そして、それをみてこの十日間のことを時々思い出すかも知れない。

《終》


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posted by maruzoh at 07:40| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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