やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年11月23日

【エッセイ】友だち


【エッセイ】友だち


 友だちにもいろいろあるが、私と彼女は電話友だちというところだろうか──。同じ市内に住みながらそれぞれ仕事を持っているし、子離れも完全ではない年齢なのでこれが一番、無理なく続く手段のようだ。
 彼女の下の息子さんが大学生になって家を離れ、当面向き合うのが中年二人になると急に今まで見ないようにしてきたご主人のいろいろが目に付いて困るという。二十五年前、人の紹介で知り合って暫く付き合ってみたがやはり断るつもりで遅かった最後のデイトだった。夕陽に照らされた横顔の力ない笑顔にコロリとまいって「ノー」が「ゴー」に急変してしまった話は二度聞かされた。
「弱さとやさしさを読み違えたのよ」
「今さらそんなこと言ったって、もう時効よ」
「朝、新聞を手にとって読むんじゃなく見るの、バサバサめくるだけで最後のテレビ欄で、暫く目を止めて、そのまま四つに折ってポイと投げ出すのをみるとムカムカするのよ」
 男のくせに世間で何が起ころうが自分には関係ないと関心を示さないのに、自分の健康にはすごく神経質で魚を焼き過ぎるな、ほうれん草はよく水に晒したかと口煩い。夜はそれぞれ違うテレビを見るか、一人は読書、一人は早寝。まだローンの終わらない3Lの両端にポツンポツンと座って二年後に控えたそれぞれの定年後の生活が思いやられる──。
 彼女は大きな会社の委託部門にパートで勤めている。そこにも互助会のようなおざなり組合があって、輪番制の役員が回ってきた。ある役員会の帰り、帰る方向が同じだったことからKと知り合った。根回しですでに決まっている事項の再確認だけの面白くもない会議の帰り、一時間半の電車があっという間だった。定年後の再就職で六十は過ぎているはずの彼が、文学の話・音楽の話を少年のように目を輝かせて話した。
「おかげで今日は退屈どころか、楽しかったですよ」
 白い歯をみせた笑顔が忘れられなかった。
 二、三日して帰りに階段の下でばったり出会った時、「どうですか、お茶でも」といわれた。咄嗟に一緒にいた親しい同僚を誘った。その時の話題は少し前この町で上演された『上海バイスキング』の話だった。日中戦争直前のあだ花のように咲いた上海のジャズの世界を実によく知っていて引き込まれた。次の朝、同僚が「ハイカラなおじいさんね」といったのが、すごく.腹立たしかった。次からは一人で喫茶店で話した。
 彼女の仕事が土・日休みなのを知ってから土曜日の日中よく電話してきた。その何回めかにドライブに誘われて昼食を共にして少し遠出した。その時初めて家族の話をした。それまで背後に家庭の匂いの全然ない人だった。もう家庭を持った三人の子どもと、四人の孫がいること、奥さんは家の中しか知らない女で「僕はバカな女は嫌いです」というキザな言葉が彼女のプライドをくすぐった。つられて彼女も二人の子どもと、夫のことを盆栽だけが生き甲斐の人だと口を滑らせた。
 それから次のお誘いを心待ちしている自分に戸惑った。そしてそれは次の土曜日、当然のようにやってきた。二回めのドライブの帰り突然小道に入ったなと思った時、急に停車した。目を上げるとそこは話に聞くモーテルという所だった。体中の血が逆流した。
「冗談でしょう?」顔色が変わったと思う。
「バカにしないでください!」とも口走ったと思う。もっといろいろ言ったと思うが憶えていない。Kも気まずく走り出した。しかしその瞬間から、喋り疲れるほど喋った口は二つとも石になってしまった。団地の入り口より少し手前で車は停まり、無言のまま転がるように降り立った彼女を残して車は走り去った。同じ車の中で、同じ登場人物が条件一つ変わったことで、こんなに違う世界になってしまうのか……。
 彼女たち夫婦は二人とも故郷が遠いので、慶弔事で一緒に旅行することはあっても、この五年間、二人で遊びに出掛けたことが一度もなかった。それがこの春の連休に彼女が無理に夫を連れ出した。白タクのいい運転手さんに恵まれていい旅になった。意外だったことは、無口なご主人が、半日一緒に回った運転手と気さくに世間話をすることだった。家では見せない顔だった。車の話や、松の種類の話など、彼女の入る隙さえなかった。今さら再発見した気分だったという。
「その時のお土産だったの? この間いただいたきれいな京菓子」
「そういうわけ──。よくない夢は人に話すと消えるって言うじゃない? これでほっとした。電話って便利ね、向き合っていたら貴女にだって恥ずかしくて出来ないと思う」
 その声はカラリとしていた。
「男と女の友情なんてないのかしら? もしあったとしても、とても難しいのね、きっと」
 話は尻切れトンボに終わった。

《終》


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posted by maruzoh at 17:36| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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